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てっしゅう
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「夢の続き」 第七章 体験話

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「知り合ったのは戦地に赴く輸送船の中でだよ。同じ部隊だったからね。彼は写真班としてみんなの笑顔や生活ぶりを撮影していましたね。ジャングルの奥地に向かうとゲリラや野生動物などで悩まされましたが、景色の良い場所ではみんなを集めて集合写真を撮ったりしていました」
「じゃあ何枚かお持ちなんでしょうか?」
「あるよ。見せてあげましょう」

中山は箪笥の引き出しから古い写真を数枚出して貴史と洋子に見せた。
「これはね、シンガポールへ行く途中で撮ったもの。右端に写っているのが私だよ。こちらは、シンガポールに着いてからのもの。部隊全員の集合写真だよ。私と数人を残してみんな戦死したがね・・・」
「この頃は皆さん笑顔なんですね・・・」
「彼は笑顔しか写さなかったからね。戦いが激しくなってからはもう写さなくなってしまったよ」
「笑顔が撮れないからですね」
「そうだよ。それにフィルムも手に入らなくなってしまったからね」

貴史は多くの日本兵たちが笑顔で写っていたことに感銘を受けた。

「貴史くん、私もそして仲間たちもシンガポールでは終始笑顔だったんですよ。何故だか解りますか?」
「攻略した喜びからでしょう?」
「それもあるね。でももっと嬉しかったことがあったんだよ。それはね、ずっとイギリスに支配されていたから、われわれ日本人がその民族を解放したと本気で礼を言われたんだよ」
「大東亜共栄圏の教えられたとおりに第一歩を踏み出したと言うことですね」
「よく知っているね。感心しました。武雄さんを初め、われわれを支えていた戦争の目的でしたからね。俺たちは正しかったんだと実証したようなものだったよ」
「俺は軍部の宣伝に過ぎないとおばあちゃんにも話したのですが、日本軍いや日本政府の思惑は間違いなかったのでしょうか?」
「貴史くんは日本悪しなんだね。まあ殆どの戦後生まれの人たちはそうだろうね。そういう教育をしてきたからな」
「多くの国民を徴兵し戦地で無謀な戦いに参加させたことは犯罪だと思っています。兵士や国民には選択肢がなかったのですからね」
「なるほど。選択肢か・・・確かにないね。反対!などと言ったら銃殺か投獄されたからね。まあ、私のように戦争から帰ってきた人間にしてみれば見方が違うんですよ。たくさんの仲間が連合軍に殺された。もちろん私たちも殺した。誰が始めたとしても戦っている兵士たちにとっては関係ない。生き残るか殺されるかだからね」
「極限状態になっていたと言うことですね。見境なくそれは女、子供でも殺したと言うことですか?」
「・・・う〜ん、そういう奴もいたな。そういう部分も含めてあの戦争では極端に言えば日本とそれ以外という感じになっていた」
「連合国以外でも人が信じられなくなっていたのですね」
「そう、だから降伏は絶対にしなかった。何をされるかわからなかったからね」
「実際はどうだったんでしょう?捕虜になった日本人は殺されたのですか?」
「満州でロシアに連れて行かれた日本人を除けばそういうことはなかったようだね」
「シベリヤでの不当強制労働ですね」
「ロシアは、戦争犯罪人だよ。条約違反もはなはだしい。彼らが非難されることなく北方領土を占領していることに何故日本はもっと抗議しなかったのか情けないよ」

貴史は中山の話を聞いていて、戦争を敗者から見るか勝者から見るかで違うことだと感じさせられた。

「ゆっくりと話す時間もないだろうから、今から話すことを貴史くんなりに考えて欲しいと思うんです」
「時間?そうだった、伊豆下田駅に三時に集合だったことを忘れていました」
「そうかい。じゃあ少し話したら私が車で送っていってあげよう。こうして知り合ったご縁だ。遠慮はいらないよ」
「本当ですか!助かります」
「この戦争が始まるときに天皇は反対されたんだよ。しかしね、内閣の意思に従うのが慣例だったから、勅許を出された。東条はね負けることを知りながら、やるしかないと国民を鼓舞した。でなければ弱腰と非難され内紛が起きかねない状況だったんだよ。それこそ国内に内紛が起これば列強国にとっては好都合だったから侵略の手を伸ばされたかも知れない。そのことを一番危惧したんだよ。中国や東南アジア諸国のようになってしまうことをね」
「でも、中山さん。日英同盟なんかを見ても日本は認められていたんじゃないんですか?大国として」
「本気でそう考えていたとは思えないね。特にアメリカはね。それより中国やアジア諸国を日本の味方にされてしまう方がイヤだったんだろね。しきりに挑発して戦争に向かわせようとしていたんだ。そうとしか思えない。だからその意味では私たちが戦ってきたことに間違いはなかったんだよ」
「手を先に出したのは日本だったけど、そう仕向けたのはアメリカだったと言うことですか?」
「まさにその通りだよ。学校で習わなかった歴史がそこにあるよ。私たちはみんなで戦ったんだ。殺されることより日本の名誉を守ろうとした。大東亜共栄圏も評価されてはいたんだ。でもそれより、許せなかった欧米の日本への対応に、いや人種差別にノーと言ったんだよ。東洋人全部の思いが真珠湾攻撃に走らせたのだよ」
「人種差別ですか・・・考えたことがなかったです。歴史的に見て白人文化はそうでしたね。殺すのは自分たちと同じではない人間だったんですね」
「そうなんだよ!よく言ってくれた。私は今日まで生きてきて良かったよ。初めて思いが伝わった。ありがとう・・・送る準備をするから外で待ってて下さい」

中山は快く貴史と洋子を伊豆下田駅まで送ってくれた。洋子が心配するほど貴史は考え込んでいた。

伊豆下田駅に着くまで中山は話を続けた。
「貴史くん、私と同じように生き残った海軍のパイロットが居てね。話を聞いたことがあるんだ。彼は、真珠湾攻撃に出陣した生き残りで、飛び立って見事に敵戦艦に魚雷を投下して命中させたんだよ」
「不意打ちですからひとたまりも無かったのでしょうね。日曜日だったので(現地時間)兵士たちは持ち場を離れていたとも聞きました」
「良く勉強しているね。でもね、アメリカ軍はわざとその戦艦を沈没させたんだよ。何故だか解るかい?」
「わざとですか?」
「そうだよ。魚雷を受けた反対側を浸水させて傾かないようにして沈めたんだ。浅瀬だと解っていたからね」
「どうしてそんなことをしたのですか?」
「すぐに修繕して再び使えるようにする為だよ。転覆してしまったら使い物にならなくなるからね。アメリカ軍はそれほどまでに戦いに対して用意周到だったのだよ」
「どうしてそのことが解ったのですか?」
「そのパイロットが戦後ハワイでの記念祭で当時のアメリカ兵から聞いたそうだよ。日本からも何人かの関係者が呼ばれての式典だったらしい」
「そうですか。アリゾナ記念館へは是非行って見たいですね」
「新婚旅行で行けばいいじゃないか。ねえ、洋子さん?」
「あっ、はい・・・そうですね」
「中山さんは行きたくないですか?」
「私はもうこの年だし、いまさらアメリカ軍の勝ち話を聞きに行きたいとは思わないよ。それより貴史くんにはしっかりと日本人の考えを向こうで話せるようにして欲しいね。彼らの正義は自らを正当化させる為の正義だったと・・・ね」