「夢の続き」 第七章 体験話
第七章 体験話
宿での食事も済んで温泉に浸かりロビーに戻ってきた貴史はソファーの横においてある本棚の中に立てかけてある写真を見つけた。傍に寄って手にとって眺めていると、宿の女将から声をかけられた。
「お客様、そちらの写真は当館の初代女将が大切に仕舞っていたものを修復したものです。宿に相応しくないと周りから言われるのですが、父に見守られているように感じるものですから、置かせて頂いているんです。ご興味がおありなんですか?」
「ええ、実は戦争のことを調べているんです。夏休みに書いた作文にどうしても納得がゆかなくて、少し勉強しているところなんです」
「そうでしたの。まだお若いのに感心ですね。写真に写っている男性の右側にいるのが父なんです。南方に出征していた時に撮ったそうです。写真班だったんです。旅館と一緒に写真館もやっていたんですの。今はもうやめましたけど」
「そうだったんですか。まだご健在でしょうか?」
「いえ・・・亡くなってしまいました。もう一方写っているでしょ?その方が届けてくださったの、カメラと一緒に」
「じゃあ、戦死されたのですね」
「はい、立派な最後だったと聞かされました」
「俺のおじいちゃんもフィリピンで重傷を負い帰国して亡くなりました。最後まで戦えなかったのが悔しかったのでしょうか、おばあちゃんに詫びていたそうです」
「悔しかったでしょうね・・・当時は戦って死ぬことが本望だったのでしょうから」
「はい、それから遺言のように、俺は間違っていた、と言葉を残したんです。その意味が解らなくて・・・多分戦争の意味を問いかけたのでしょうが、俺が見つけたいと思っているんです」
「素晴らしいことを考えてらっしゃるのですね。お若いのに。もし宜しければ、近くにその写真の方が住んでらっしゃいますのでお話しされたらいかがですが?何かヒントになるようなことがあるかも知れませんよ」
「本当ですか!ぜひお願いします」
「解りました。明日の朝電話してみますからお知らせいたします」
洋子と顔を見合わせて貴史は「やった!きっと何かつかめるぞ」そう呟いた。もちろん、洋子は同じように嬉しい顔はしなかった。
部屋に戻って貴史は両親と千鶴子に女将との話をした。
秀和から明日の予定が決めてあるから勝手に行動できないぞ、と言われたが、貴史はもし会えるのなら今しかないから会いたいと父に頼んだ。
「俺がまたここに来ることは直ぐには叶わないから、明日は絶対に会って話を聞くからね。状況によっては俺一人で帰るから心配しないで」
「そんな事が出来るか。約束の時間までに帰りの駅まで来ることが会える条件だぞ、いいか」
「解ったよ」
貴史は洋子にメールした。
「話しがあるからロビーに下りて来い」
洋子は返信した。
「うん、直ぐに行く」
誰もいないロビーで二人はソファーに座って話をした。
「洋子、俺は明日女将さんが教えてくれた男の人と会うから。お前はどうする?」
「一緒に行く」
「退屈するぞ、構わないのか?」
「貴史と一緒に居たい」
「そうか・・・解った」
椅子から立って部屋に戻ろうとした貴史に、
「ねえ、もう帰るの?」そう尋ねた。
「用件話したからな。まだ他にあるのか?」
「誰もいないのよ・・・ちょっとは優しくしてよ」
「ええ?親がいるんだぞ。気にするじゃないか」
「だから、ちょっとだけ」
「何をだ?」
「・・・聞くの?」
「触って欲しいのか?」
「そんな風に言わないで!もういい・・・」
今度は洋子が立って部屋に戻ろうとした。
手を掴んで、引き戻し軽く唇にキスをした。洋子は貴史の首に手を回してより強く吸った。
偶然だが、片隅で女将がこの光景を見ていた。洋子と同じぐらいの年の娘がいたので、ちょっと切なくなった。好きな人が出来ると娘もこんな風にするんだろうか、と考えてしまったからだ。
翌朝朝食の時間に女将は貴史のところにやってきて昨日の返事をした。
「おはようございます。先方にお電話いたしましたところ大変快く引き受けて頂けましたので、行かれるようでしたらここに電話してから伺って下さい」
そう言ってメモを渡した。
「女将さん、ありがとうございます。洋子と二人で伺わせて頂きますので後で電話します」
「そうですか、場所は地図をご用意しますのでお出かけ前にフロントにお越し下さい」
「ご親切に、助かります」
「いいえ、私も嬉しく思います。それから、私にも洋子様と同じ年の娘が居ります。貴史様のような素敵な男性とお付き合いが出来たらと、昨日思いました。どうぞ大切にしてあげてくださいませね」
「はい、昨日ですか・・・」
貴史は洋子とキスをしていたところを見られたのではないかと推測した。
両親、祖母、佳代、美枝、洋子の母、姉たちと別れて、貴史と洋子は教えてもらった男性の自宅へ向かった。歩いて15分ぐらいの場所に住んでいた。
玄関のチャイムを鳴らす。
「おはようございます。お電話しました片山です」
中から70ぐらいの男性が出てきた。
「やあ、よく来てくれましたね。汚いところだけど遠慮はいらないよ。どうぞ上がってください」
「はい、ありがとうございます。こいつは栗山洋子と言います。同級生です」
「そうですか。女将さんから聞きましたよ。同級生だけですか?ハハハ」
「栗山です。お邪魔します」
こじんまりとした住まいは綺麗に片付けられていて男一人暮らしだとはとても思えなかった。
「自己紹介しないといけないね。私は女将さんのご主人武雄さんと戦地で一緒だった中山と言います。生まれは広島です。原爆で両親と妹そして親戚を亡くしました。天涯孤独になってこの地に引越しして住んでいるんです」
「私は片山貴史、隣は栗山洋子と言います。都立高校の二年生です」
中山は二人を見てこんな若い人たちが何故戦争のことに興味があるのか知りたくなった。
「片山さん・・・貴史くんと呼ばせてください。あなたのような若い方がどうして戦争にこれほどまで興味を覚えるのですか?」
「はい、実はおばあちゃんに話を聞いてから亡くなった自分のおじいちゃんが残した最後の言葉、俺は間違っていた、の真意を探りたいと思ったんです」
「ほう!遺言のようなものですな」
「おばあちゃんは違うって言いました。きっとその後に、だからお前は・・・と続くんじゃないかとその本当に言いたかったことを遺言として俺に託すと言われたんです」
「そうでしたか。いつ戦死されたのですか?」
「8月14日です。岡谷市の疎開先ででした」
「と言いますと、戦地から引き上げてこられていたということですね?」
「はい、足を銃で撃たれてその後治ったのですが悪い細菌に感染して亡くなったと聞かされました」
「うむ・・・ではその闘病中にいろんなことを思い出されて、何か仰りたかったのでしょうね。何でしょうね・・・」
「中山さんは、女将さんのご主人と仲が良かったと聞きました。お写真も見せて頂きました。何かお二人で戦争のこと話されていましたか?」
宿での食事も済んで温泉に浸かりロビーに戻ってきた貴史はソファーの横においてある本棚の中に立てかけてある写真を見つけた。傍に寄って手にとって眺めていると、宿の女将から声をかけられた。
「お客様、そちらの写真は当館の初代女将が大切に仕舞っていたものを修復したものです。宿に相応しくないと周りから言われるのですが、父に見守られているように感じるものですから、置かせて頂いているんです。ご興味がおありなんですか?」
「ええ、実は戦争のことを調べているんです。夏休みに書いた作文にどうしても納得がゆかなくて、少し勉強しているところなんです」
「そうでしたの。まだお若いのに感心ですね。写真に写っている男性の右側にいるのが父なんです。南方に出征していた時に撮ったそうです。写真班だったんです。旅館と一緒に写真館もやっていたんですの。今はもうやめましたけど」
「そうだったんですか。まだご健在でしょうか?」
「いえ・・・亡くなってしまいました。もう一方写っているでしょ?その方が届けてくださったの、カメラと一緒に」
「じゃあ、戦死されたのですね」
「はい、立派な最後だったと聞かされました」
「俺のおじいちゃんもフィリピンで重傷を負い帰国して亡くなりました。最後まで戦えなかったのが悔しかったのでしょうか、おばあちゃんに詫びていたそうです」
「悔しかったでしょうね・・・当時は戦って死ぬことが本望だったのでしょうから」
「はい、それから遺言のように、俺は間違っていた、と言葉を残したんです。その意味が解らなくて・・・多分戦争の意味を問いかけたのでしょうが、俺が見つけたいと思っているんです」
「素晴らしいことを考えてらっしゃるのですね。お若いのに。もし宜しければ、近くにその写真の方が住んでらっしゃいますのでお話しされたらいかがですが?何かヒントになるようなことがあるかも知れませんよ」
「本当ですか!ぜひお願いします」
「解りました。明日の朝電話してみますからお知らせいたします」
洋子と顔を見合わせて貴史は「やった!きっと何かつかめるぞ」そう呟いた。もちろん、洋子は同じように嬉しい顔はしなかった。
部屋に戻って貴史は両親と千鶴子に女将との話をした。
秀和から明日の予定が決めてあるから勝手に行動できないぞ、と言われたが、貴史はもし会えるのなら今しかないから会いたいと父に頼んだ。
「俺がまたここに来ることは直ぐには叶わないから、明日は絶対に会って話を聞くからね。状況によっては俺一人で帰るから心配しないで」
「そんな事が出来るか。約束の時間までに帰りの駅まで来ることが会える条件だぞ、いいか」
「解ったよ」
貴史は洋子にメールした。
「話しがあるからロビーに下りて来い」
洋子は返信した。
「うん、直ぐに行く」
誰もいないロビーで二人はソファーに座って話をした。
「洋子、俺は明日女将さんが教えてくれた男の人と会うから。お前はどうする?」
「一緒に行く」
「退屈するぞ、構わないのか?」
「貴史と一緒に居たい」
「そうか・・・解った」
椅子から立って部屋に戻ろうとした貴史に、
「ねえ、もう帰るの?」そう尋ねた。
「用件話したからな。まだ他にあるのか?」
「誰もいないのよ・・・ちょっとは優しくしてよ」
「ええ?親がいるんだぞ。気にするじゃないか」
「だから、ちょっとだけ」
「何をだ?」
「・・・聞くの?」
「触って欲しいのか?」
「そんな風に言わないで!もういい・・・」
今度は洋子が立って部屋に戻ろうとした。
手を掴んで、引き戻し軽く唇にキスをした。洋子は貴史の首に手を回してより強く吸った。
偶然だが、片隅で女将がこの光景を見ていた。洋子と同じぐらいの年の娘がいたので、ちょっと切なくなった。好きな人が出来ると娘もこんな風にするんだろうか、と考えてしまったからだ。
翌朝朝食の時間に女将は貴史のところにやってきて昨日の返事をした。
「おはようございます。先方にお電話いたしましたところ大変快く引き受けて頂けましたので、行かれるようでしたらここに電話してから伺って下さい」
そう言ってメモを渡した。
「女将さん、ありがとうございます。洋子と二人で伺わせて頂きますので後で電話します」
「そうですか、場所は地図をご用意しますのでお出かけ前にフロントにお越し下さい」
「ご親切に、助かります」
「いいえ、私も嬉しく思います。それから、私にも洋子様と同じ年の娘が居ります。貴史様のような素敵な男性とお付き合いが出来たらと、昨日思いました。どうぞ大切にしてあげてくださいませね」
「はい、昨日ですか・・・」
貴史は洋子とキスをしていたところを見られたのではないかと推測した。
両親、祖母、佳代、美枝、洋子の母、姉たちと別れて、貴史と洋子は教えてもらった男性の自宅へ向かった。歩いて15分ぐらいの場所に住んでいた。
玄関のチャイムを鳴らす。
「おはようございます。お電話しました片山です」
中から70ぐらいの男性が出てきた。
「やあ、よく来てくれましたね。汚いところだけど遠慮はいらないよ。どうぞ上がってください」
「はい、ありがとうございます。こいつは栗山洋子と言います。同級生です」
「そうですか。女将さんから聞きましたよ。同級生だけですか?ハハハ」
「栗山です。お邪魔します」
こじんまりとした住まいは綺麗に片付けられていて男一人暮らしだとはとても思えなかった。
「自己紹介しないといけないね。私は女将さんのご主人武雄さんと戦地で一緒だった中山と言います。生まれは広島です。原爆で両親と妹そして親戚を亡くしました。天涯孤独になってこの地に引越しして住んでいるんです」
「私は片山貴史、隣は栗山洋子と言います。都立高校の二年生です」
中山は二人を見てこんな若い人たちが何故戦争のことに興味があるのか知りたくなった。
「片山さん・・・貴史くんと呼ばせてください。あなたのような若い方がどうして戦争にこれほどまで興味を覚えるのですか?」
「はい、実はおばあちゃんに話を聞いてから亡くなった自分のおじいちゃんが残した最後の言葉、俺は間違っていた、の真意を探りたいと思ったんです」
「ほう!遺言のようなものですな」
「おばあちゃんは違うって言いました。きっとその後に、だからお前は・・・と続くんじゃないかとその本当に言いたかったことを遺言として俺に託すと言われたんです」
「そうでしたか。いつ戦死されたのですか?」
「8月14日です。岡谷市の疎開先ででした」
「と言いますと、戦地から引き上げてこられていたということですね?」
「はい、足を銃で撃たれてその後治ったのですが悪い細菌に感染して亡くなったと聞かされました」
「うむ・・・ではその闘病中にいろんなことを思い出されて、何か仰りたかったのでしょうね。何でしょうね・・・」
「中山さんは、女将さんのご主人と仲が良かったと聞きました。お写真も見せて頂きました。何かお二人で戦争のこと話されていましたか?」
作品名:「夢の続き」 第七章 体験話 作家名:てっしゅう