昔の事―ざんがい―
「……本当だな」
タクトの長い話を聞き終えて、フーガは溜め息混じりに零した。
「曰くも何も無いただの木で、何をするつもりか……」
バリトンが不思議そうに首を傾げた。フーガもまた、欠伸が移ったかのように同じように首を傾げる。
そんな二人を正面に捉えつつ、タクトはようやく首をさする動作を止めて、言った。
「でもさあ、本当にいわくつきじゃないっていう証拠もないでしょ?」
ちょっと楽しそうな声だった。まあ、変な話ではあるが、怖いわけではないので恐怖より好奇心が出てきたのだろう。
タクトのその言葉に、バリトンが軽く笑いながら返す。
「あるわけなかろう。私達が入学する前からあの木は普通にあったんだぞ」
「それらし曰くなど、何も聞いたことないしな」
そう続けるバリトンをタクトは少しムッとして言い返す。彼は意外と負けず嫌いなのだ。
「僕らが知らないだけってかもしれないじゃない」
その言葉にまたもバリトンが言い返して何やら論争が始まろうとしたのを、呆れたような表情をしたフーガが止めた。
「まぁ、いーじゃねーか。今さら妖怪やら幽霊やらが出たりなんかするのに、理由ねーだろ。たぶん」
鶴の一声さながらのフーガのその言葉に、二人の論争はぴたりと止まり、その場はまた至って静かになったのだ。