舞~紅と黄金~
(寒くないじゃない)
マチコは暖かな気持ちだった。
吐く息は白い。
たぶん、その暖かさは交番の中を熱く保っていた温風器のせいだとも思わずにマチコは、ほかほかした体温で帰宅の路を歩いた。
途中、バッグの外ポケットで携帯電話が鳴った。
まだ見慣れない名まえが表示された。
メールだった。
[こんばんは。お元気ですか?初メールです。今休憩時間です。10分です。届いていたら 返事をください]
鼻から息が漏れるような笑いが出た。擦れ違った人が、変な顔してマチコを見て通った。
マチコは、足を止め、空を見上げた。
すでに暗い。一等星が光って見えた。
[こんばんは。さっきと変わらず元気です。星をひとつ見つけました。見えますか?]
[見えます。同じ空を見る事ができていいな]
(何これ?小学生のコクリより純かも)
[今度の土曜、非番です。あの公園で会えますか?]
(これってデートの誘い?)
何か他の文章を弾いては消して[はい]とだけ送信した。
[すみません。時間が終了です。時間はまたメールしておきます。お気をつけて帰って
ください]
(これだけ書くなら時間を打てるでしょ・・・)
それもまたマチコには嬉しかった。
こんなにも人の気持ちと近づくだけで、自分の気持ちが変わるなんて。
母親の後ろばかりに居た幼少。無邪気に笑った幼稚園。仲間を意識した小学生。
異性にはにかんだ中学生。部活ばかりの高校生。形ばかりこだわった大学生。
人の後ろを知った社会人。
人と関わるたびに心が出せずに閉じてゆく。結局ひとりがラクと殻を作った。
それなのに、卵の殻を割るように『コツコツぱかっ!』と容易く、
あの温かな掌がするなんて。