舞~紅と黄金~
交番勤務は交代制のため、常時いるわけではない。
マチコが翌朝、出勤の時には、交番の中にその姿を見かけたが、
帰りにはもう居なかった。
翌日から、さりげなく交番内をうかがい、通りすぎるようになった。
ある日は、奥の席に座っていた警察官と目が合い、足早に去った。
不審者と間違えらえかねない。
マチコは、意を決して交番に乗り込んだ。
だが、実際に戸を開け、足を踏み入れると、竦んだ。
ましてや、その動機が邪(よこしま)な部分を持っていてはなおさらだった。
「どうしましたか?」
「あ、あの、パスケース落ちていませんでしたか?」
「落としたのは、いつ?どの辺り?」
「えっとおとといだったかな」
「じゃあ、書類作りますので、そこに掛けて。はい。ここに名まえと連絡先」
マチコは、ついてしまった嘘を一生懸命説明した。
「この近くだったら、また連絡しますから来てください」
中年の、たぶんベテランの警察官なんだろう。地域を良く知り、威圧的な話し方でなく、
少しくだけ過ぎでもあるが、親しみのある話し方で相手をしてくれた。
「じゃあ、お願いします」
マチコは、交番を出て、大きく溜め息をつき、空を見上げた。
(なにやってるんだろう、わ・た・し)
三日後、マチコは、驚いた。
交番からあるはずがない連絡が来たからだ。