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舞~紅と黄金~

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その前に差し掛かったとき、交番の戸が開いて長身の警察官が、出てきた。
マチコは、それに気を止めることなく、寒さに背を丸め、通りすぎようとした。
「こんばんは。お気をつけて」
(おまわりさんって、あーやって挨拶してるのね。こっちは寒いのにごくろうさん)
数歩過ぎても、耳に残る声。
「こんばんは。お気をつけて」
マチコの後ろを歩く人たちにも澄んだ声で挨拶の声を掛けている。
マチコは、足を止め、何か探しでもしているような振りをして交番に目を向けた。
背筋が伸びた長身に濃紺の制服。ま深に被った制帽。
その下の優しくも厳しい目で歩道と車道の通りを見ているその横顔。
何処かで会ったのか、それとも会ってて欲しい希望から会った気になっているのかを
脳裏で確かめながらその警察官を見つめた。
その視線に気付いたのか、たまたまこちらを向いただけなのか、警察官と目が合った。
マチコは、咄嗟に目を伏せたが、頬が熱く感じた。
「どうかされましたか?」
警察官が近づいて来て声をかけた。
(あ、やっぱりあの公園の人。あれ?私のこと覚えてないのかな?そうよね。暗かったし、ほんの僅かな時間だったし、横向きだったし・・・)
マチコは、会えた嬉しさの反面、気付いてもらえてない淋しさを感じた。
「どうしましたか?」
「いえ、なにも・・・」
「そうですか。寒いのでお気をつけて」
「はい」
マチコは、半分うな垂れたまま駅への方向につま先を向けた。
「公園は女性ひとりでは危ないですよ」
後ろからの声に振り返った。
「散歩は、私がボディーガードできる時にしてください」
「・・・あ。はい。ごくろうさまです」
マチコは、目が潤むのを我慢して、顔いっぱいの笑顔を見せた。
ひと角歩いて振り返ったマチコは、誰にも同じように優しい目と厳しい眼差しで行き交う人を見るその警察官の姿を見た。
(そうよね。お仕事お仕事。ああ寒っ)
冷えた手を擦り合わせながら、心にほんわり感じた温かさをマチコは気付いただろうか。

作品名:舞~紅と黄金~ 作家名:甜茶