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舞~紅と黄金~

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「素敵でしたか?」
「・・・ええ。声・・・かけてすみません」
「いえ、見られるなんて思わなかったから。こんな時間にめったに来る人居ないから油断しました」
気さくな笑みを湛えながら、話しかけてきた男は、マチコよりも頭ひとつ分上の背丈があった。
その男のいうように周りにほかに人の気配はない。二人きりだ。
「良かったら、少し話しませんか?」
マチコは、思考や言葉もまとまらないうちに頷いてしまっていた。
「じゃあ、あのベンチにでも」
男が向かうベンチは、公園の数少ないライトに下にあり、通路とも離れていない場所だ。
先に腰掛けた男は奥歯を噛みしめた表情。
「うー冷たい。このベンチかなり冷えてますよ。僕が暖めましょうか?」と座っていた位置をずれた。
「あ、いえ大丈夫です。コートも着ていますし、冷たいのも僅かなあいだでしょうから」
マチコは、元のところに座り直していただくよう手で促した。
マチコもベンチに座った。
コートを敷いた腰はさほどではなかったが、スカートから出ていた脚がベンチに触れると やはり冷たかった。
「あ」
「クククほらね。冷たかったでしょ」
マチコは、赤面したのが分かるほど恥ずかしかった。
だが衿を立てたほどの冷たい風はもう感じなくなっていた。
「といって、何を話しましょうか?」
「うーん・・・。あのー何していらっしゃんですか?」
「これまたストレートですね」
若いと思った男の口調に案外古臭さを感じたマチコは、ひと肩ほぐれた。
「まあ簡単にひと言でいうなら、ストレス解消ってところですが」
「ストレス解消ですか」
「ははは、まいったな。初めての日に見つかるなんて。実はこんなことしたのは初めてで」
男は苦笑しながら首筋を掻いた。
こういうときは、愛想笑いでも釣られ笑いでもしておく方がよいかとマチコも微笑んだ。
「それで、あなたは?」
「え、私ですか?私は・・・」
(街の暖かい雰囲気が嫌になったなんていうのも可笑しいだろうな)
口先をもぞもぞさせながら俯き小首を傾げるマチコの手を握った。

作品名:舞~紅と黄金~ 作家名:甜茶