Da.sh
守が金丸金属工業の1階に降りた時、ロビーには目付きの鋭い男が坐っていた。興味深げに守を見送ると受付嬢に片手を上げて、エレベーターに乗った。
受付嬢は嬉しそうにして手を振り返した。
男の行き先は社長室。
「来客だったようですね」
テーブルの上に乗っているたばこケースから1本抜き出し、火を付けた。
フーッ、と煙を吸い込んだ後うまそうに吐き出した。
「おう、久し振りだな。ちょっとした賭けをしようと思ってな」
「クラウドナイン、さすがにうまいタバコだ。で、どこのやつですか?」
「それは君でも言えんよ」
「別にかまいませんがね。ちょっと気になるんですよ、金丸さん」
「どうしたィ」
「だれかに似てると思いませんでしたか?」
「う〜む、そう言われれば・・わしも、ん? とは思ったが、はて、誰だろう?」
「エレベーターの中で考えてたんですけどね。ほれ、13年前に経理課長をしていた男、奴の息子は葬式の時に見てるんですけどね。その息子じゃないかと思ったんですよ」
「渡辺。自殺に見せかけた・・似ている。渡辺にそっくりだ。大賀渉、と名乗ったが・・・ま、偶然だろう。仕事の話できたんだ。昔のからくりなど知られようはずないさ」
「そうかな。ま、注意に越したことはない。私に仕事として依頼するなら調べますがね」
と、たばこを吸いこむと天井に視線を上げ、下唇を突き出すようにして煙を吐き出した。
「う〜む、念のためそうするか」