Da.sh
浜崎の声が聞こえた。
守は、目覚めた時はいつも目尻を濡らしているので、わざと大あくびをした。
「守。また思い出してたのかよ。涙流してたぞ」
「チッ」
起き上がると洗面所へ行き、ゴシゴシと顔を強くこするようにして洗った。
タオルを首にかけ、冷蔵庫からサンゴー缶を取り出すと、浜崎の横にあぐらをかきあおるようにして飲んだ。
「守。うまくいったらしいな」
「ああ。で、出航は?」
「1週間後の19日。午後5時出航だ。ちょうどサイゴンに戻る貨物船があってな。小型だが客は10人ほど乗れる。ほれ、パスポート。ついでに国際免許証も手に入った。守はグエン・カオ・タイン、俊はホー・チエン・ズン。言葉の方は大丈夫だろうな」
「簡単な言葉ならな。入国してしまえば英語でいけるよな」
「俺の知り合いのチュオン・バン・ハイが相談に乗ってくれる。日本語はペラペラだ。連絡先だ」
守は紙片を受け取るとさっと眺め、パスポートに挟んだ。
「すまんな。俺の為に」
「お前ら3億ずつでいいんだな。向こうで口座を開いたら送金する。しかし、俺の仕事の手がなくなるのはちと痛いわ」