Da.sh
足立区綾瀬団地のそばにある、見かけは古い2階建てアパート。
コンビニの袋を提げた渡辺守は、カンカンという大きな音を立てて階段を上がっていった。
一番奥の部屋を軽くノックして中に入った。
「ほれ、しゅん。サンゴー缶」
「おっ、サンキュ」
木村俊介は、3台のパソコン相手にキーボードを叩いていた。
缶ビールを俊介に手渡すと守は、プルタブをひいて一気にのどに流し込んだ。
プハーッ、と一息つくとパソコンの画面を覗き込むようにしてネクタイを緩め、スーツをトレーナーに換えた。
「親父さんのスーツ、似合ってんぞ」
「ああ、腰回りがちょっとだぶついてたけどな」
「で、どうだった?」
画面から顔を上げた俊介は、守の視線を捉えて問いかけた。
「おまえが仕込んだサイトにうまい具合にはまってたぜ」
「パソコンに侵入して誘導するのは簡単にできるさ。で、どうだった?」
「10億。15日の4時には俺たちのもんになる。そうしたらすぐにとんずらさ。日本とはいよいよ、おさらばだぁ〜」
「浜崎さんから連絡があって、船の手配、パスポートの手配、任せておけって。どうやらうまく運んだらしい」
「受け取りはレンタカーだな」
守は畳の上にごろりと寝ころぶと天井の木目を眺め、想いにふけった。
一時も忘れたことはない。忘れようとしても忘れられないあの悪夢を見た日。