Da.sh
高校1年の夏休みからあの事件が起こるまでの間、響子と付き合っていた。クラスは違ったが、響子はソフトボール部にいた。そして守はサッカー部。狭い運動場をいくつかのクラブが譲り合って使用していた。
練習が終わると、時々は一緒に駅まで歩いた。時々は一緒に喫茶店に入った。
事件があってからはクラブを辞め、守の方から遠ざかっていった。響子に辛い思いをさせたくなかった。響子に気を遣わせるのが嫌だった。気を遣う響子に気を遣う自分が、やるせなく感じられたのだ。
噂で、響子は結婚をしてこの街で暮らしている、とは聞いていた。
こんな日に初めて出会うなんて、と思う。
東武伊勢崎線の電車に揺られながら、見納めとなる景色を脳裏に焼き付けておこうと窓の外に目をやっていたが、高校時代の響子とさっき会った響子の面影が、かわるがわる現れては消えていった。
ザックに入れている『小さな恋のものがたり』は、冬休み前に響子からもらった本だった。もう話もしなくなっていたのに。
「この本、面白いよ」
ただそれだけを言って。