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てっしゅう
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「哀の川」 第十一章 功一郎との恋

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功一郎の前で好子は本当の自分をさらけ出した。高く留まるんじゃなく素の自分と弱い自分を出して関心を惹こうという狙いであった。杏子も同様であったが、功一郎は直樹の存在を気にかけていた。それに、母親のように自分の子供が杏子を慕っていることで、感謝をする気持ち以上に男と女の欲望が出ては来なかった。
好子は年齢も近いせいか共通の話題も多く、功一郎には気楽に話が出来るので、気持ちを寄せ始めていた。香港に居る愛人は現地の男性と恋に落ち、そちらと一緒に暮らしている。一人身になった功一郎が寂しさから欲求不満になっていることは隠せなかった。閉店後に杏子をタクシーに乗せ家に帰した好子は、功一郎とそのまま出かけていった。街はまだクリスマス前で賑やかしく、ネオンやジングルベルが鳴り響いている繁華街を過ぎて、二人はホテル街に入って行く。功一郎の腕にしっかりとつかまりもたれかかるようにして好子は身を任せた。直樹のときと同じ様に・・・だ。


好子のところから帰ってきて部屋に入ると、純一はまだ起きていた。興奮が冷め遣らぬのか、杏子を待っていたのか、パジャマ姿でテレビを見ながらコタツに入っていた。

「まだ起きていたの?寝なきゃ」
「だって学校はないんだよ。それに今日のお話したかったから、帰ってくるのを待ってたんだ」
「そうだったの、じゃあ聴くわ。隣に座らせてね・・・」
杏子は純一にくっ付くようにしてコタツに入った。
「ねえ、杏子姉さん、パパは隣にいた女の人と一緒になるのかなあ?」
「だれ?好子のこと?白いドレス着ていた?」
「そう、とっても仲良くしているように見えたから・・・そうなのかと、思っていたんだ」
「・・・そんなふうに見えたのね、純一には・・・」
「あの人と結婚しちゃったら、ボクはもうパパって呼べなくなるの?」
「そんなことは無いよ、あなたのパパはあの人なんだから。でもね、これから純一のことを心配してくれるのは、直樹だから、直樹のことパパと思わなくちゃあねえ・・・」
「うん、そうするよ。杏子姉さんはどこへも行かない?お嫁に行ったら別れちゃうよね?イヤだなあ・・・そうなったら」
「純一・・・そんなふうに言わないで、悲しくなるから」もう涙が溢れてきてまともに話せなくなってしまった。心配顔で純一は覗き込んだ。

「悪い事を言ったの?なら謝るよ・・・泣かないで、大好きな杏子姉さんに嫌われたくないから・・・」純一も涙声になっていた。
「私はどこへも行かないから!ずっと純一の傍にいるから。さあ、今日も一緒に寝よう。お風呂入ってくるから、先に寝ててね・・・」
「待ってるよ、先に寝たら寂しいでしょ?早く出てきてね」

純一の優しさに、杏子の気持ちがぐらついた。功一郎はきっと好子と仲良くなっている。もう自分が横取りする気力も無くなってきたことに、潮時だと功一郎のことを考えることを辞めた。熱いシャワーですべてを洗い流し、この家で純一の将来を楽しみにしようと決心した。

好子はホテルで功一郎に抱かれた。直樹と違い濃厚で時に激しくするテクニックに完全に溺れてしまった。何度も何度も今までに体験したことが無いエクスタシーを味わっていた。功一郎は麻子や今までの若い女性と違う柔らかい感触に好子同様溺れかけていた。二人は出会うべくして出会ったんじゃないのかと、錯覚するほど相性がピッタリに思えた。

「好子・・・俺はもう離したくない、結婚しなくても構わないからずっと傍にいてくれないか?」
「功一郎さん・・・わたしこそ離れられないわ。こんな気持ち初めて、あなたのが、あなたのが・・・ずっと中に入っているんですもの・・・忘れられる訳がないわ」
「そうか、俺もお前のがくっ付いているように感じているよ・・・俺たちはピッタリなんだよ、男と女の部分が」
「そんなことってあるのね・・・たくさん男の人を知っている訳じゃないけど、あなたは特別に感じた。わたしはどう?」
「俺も同じだよ、君よりたくさん知っていると思うけど、初めてだよ、こんなにピッタリなのは・・・直樹君のことは忘れて、ずっと俺でいてくれよ」
「・・・そんな事言わないでよ、一度だけなんだから。もう不倫はイヤ・・・絶対に幸せになれないから。わたしは子供がきっと出来ないから、結婚はしてくれなくてもいいよ。日本にいるときはずっと傍にいて」
「ああ、そうしたいよ。向こうを完全に引き上げたら、二人で暮らそう。お金はあるから不自由はさせないよ」
「お金はいいのよ、あなたはそれでダメにしたんでしょ?そんなものに頼らないで、地道に自分の生き方で歩かなきゃ・・・」
「好子!ありがとう、そんなふうに思ってくれて。君とならやり直せるよ、きっと・・・」

二人は熱い思いを語り合った。功一郎は日本に帰ってからどうしようと考えていたから、これで帰りやすくなった。好子は杏子に勝った!と言う思いより、本当に功一郎に愛されたいと願っていた。

早めに入浴を済ませ杏子はバスタオル姿で部屋に入ってきた。純一のことは子供だと感じていたから気にもせずにそうした。ベッドで横になってテレビをまだ観て起きていた純一は、扉が開いて杏子の姿にちょっと恥ずかしい思いを感じた。少しして髪を梳かし、背を向ける格好でバスタオルを外しパジャマに着替えた。純一の目に素裸の杏子の姿が映った。ドキドキしてきて、男性の部分が大きくなってきた。手でしっかりとそこを押さえて、杏子に知られないようにしていた。

「ごめんね、遅くなっちゃって、明日は何をしようかな・・・どこか行きたい所、ある?」
「ううん、別に・・・仕事はいいの?」
「純一が行きたければ、その時間休ませてもらうから気にしないでいいよ。忙しいのは夜だから・・・」
「お姉さんと一緒ならどこでもいいよ・・・」
純一の不自然な格好に杏子は気付いた。両手を真っ直ぐに下へ向けていたからだ。

「どうしたの?おなかでも痛いの?見せてごらん・・・」
杏子は布団をめくった。めくってはいけなかった・・・後でそう気付いたが遅かった。純一は真っ赤な顔になってしまった。
「純一・・・わたしが気を遣わずに裸になったからいけなかったのね。謝るわ、ごめんね・・・男の子だものね、もう・・・」
「お姉ちゃん!嫌いにならないで!変なこと考えてゴメン、ゴメン・・・」
純一は悲しい顔つきになった。杏子は寄り添って頭を撫でて、そんなことは無いよ、と優しく言った。

「純一のことは好きよ、嫌いになんかならないから、心配しないで。でも、男の子になってきたから、明日からは別の部屋で寝るようにするわ。時々一緒するのは構わないけど、そうしようね。解ってくれる?」
「イヤだ!離れるのはイヤだ!きっときっと嫌いになったんだ、ボクがいやらしいから・・・」
大声で泣き出した。杏子は本当に困ってしまった。もう抱き寄せて一緒になって泣くしかなかった。

廊下を隔てて純一の泣き声は直樹たちの部屋にも聞こえた。麻子は心配になって起き上がった。直樹は手で麻子の腕をつかんだ。

「麻子、何があったかは知らないけど、姉さんがいるんだ。心配しないで明日にでも聞きなよ。だって、姉さんだって泣いているみたいだし・・・」