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てっしゅう
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「夢の続き」 第六章 伊豆旅行

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「由美さんだって貴史さんのお母さんになるんですよ。大丈夫ですって」
「ありがとうございます。洋子でよければ是非嫁に貰って欲しいです」
「そのつもりですよ。まだ少し先でしょうけど」

「おばさん!美枝さんと何を話しているの?」
貴史が聞いてきた。
「あなたのことよ」
「どういうこと?」
「洋子をお嫁さんにしてくれたら嬉しいね、って言ってたのよ」
「ふ〜ん、美枝さんがそう言わせたんじゃないの?」
「あら、そんな事無いわよ。おばさん、あなたが子供の頃からずっとそう思ってきたのよ。本当よ」
「なんか照れるな。それより、おばさん再婚したら?」
「えっ!何を急に言い出すのよ。考えてもいないのに」
「だって、まだ若いし、これから人生楽しまなきゃ。そうじゃない?ねえ、美枝さん?」
「ませたことを言うのね、貴史さんは。洋子さんがいるのよ。無理に決まっているじゃない」
「そんな事無いよ。洋子だってきっと歓迎するよ。おばさんに幸せになって欲しいもの。まだ老けるのは早いよ」

貴史は、自分と洋子が一緒になったら由美が独りぼっちになってしまうと思ってくれているのだろうかと美枝は勘ぐった。

やがて目的の列車がホームに入ってきた。

指定席だったが、恵子は無理やり貴史の隣に割り込んで座ってきた。

「お姉ちゃん!もう!何で俺と洋子の間に入って来るんだよ」
「いいじゃないの。ねえ洋子さん。いろいろとお話しましょうよ」
「恵子!私が一人で座るからここに座りなさい」
美佐子はそう言って後ろに移った。
「由美です。洋子がいつもお世話になっています」
「いえ、私は何もしてませんので。貴史こそ洋子さんにお世話になりっぱなしですから」
「誰がだよ!変な事言うなよ。おばさんに変な事話したら怒るからな」
「あら?貴史って言われてまずいようなことがあるの?」
「無いよ!」
「ならいいじゃん。洋子さん、貴史って子供でしょ?違う?」
「いえ、そんな事無いですよ」
「無理しなくてもいいから。男ってみんなガキなんだから」
「悪かったな。そこが純真でいいところなんだよ」
「自分で言ってる!変な奴」
「変な奴はお姉ちゃんだろう。大体ね弟を可愛がるのが姉として常識なんだよ。お父さんだって美枝さんに可愛がってもらっていたし、美枝さんの妹さんとも仲良くしていたんだぞ。普通は女の子ってそういうもんなんだよ」
「私は普通じゃないって言いたいの?貴史こそお姉ちゃんとは思ってないだろう?意地悪ばかり言ってる癖して、よくそんなことが言えるね」
「そっちが先にバカにしてくるからそうなってしまうんだよ」

隣の席から秀和が、
「また喧嘩しているのか!しょうがない兄弟だな」と注意してきた。
「秀和さん、仲がいいからああして言い合えるのよ。羨ましいわ、ねえ?由美さん」
美枝は秀和の言葉をさえぎるようにそう言った。

「はい、美枝さん。そう思います。お父様、ご注意なされなくても大丈夫だと思いますよ」
「栗山さん、いつも聞かされている身になると結構辛いものですよ」
「そうでしょうけど、何でも話せると言うことはいいことだと思います」
「ここにいるみんなが親兄弟思いなのは素晴らしいことね。戦争が無かったら、おじいさんも兄もみんなの話を楽しそうに聞いていたでしょうね」
「千鶴子さん!そうね。きっとそうだったでしょうね。平和って素敵なことなのね」

佳代の言葉をそれぞれがかみ締めて聞いたことだろう。


昭和16年の開戦にいたるまでには相当な駆け引きがあった。軍部の中枢にもアメリカとの戦争には反対意見が多かった。近衛文麿首相は外務大臣である松岡洋右を解任した。松岡は東条英機に「近衛には用心するように」と文章を送っていた。

この頃日本は、満州国の建国や支那事変の軍事行動でアメリカ、イギリス、フランス、中国から強い非難を浴びせられていた。東南アジア諸国のほとんどは欧米の植民地だったので、石油、ゴムなどの日本への輸出は止められていた。日本がこの植民地を解放して資源を輸入出来れば、アジアの国を欧米諸国と肩を並べるぐらいに発展させてゆけると大東亜共栄圏なる発想に執着した。

アメリカは日本が提案した中国、満州国、東南アジア諸国からの撤退条件をすべて拒否して11月26日に突きつけた「ハル・ノート」以外に道はないと迫ってきた。侵略が目的ではなかった日本の軍事行動と方針に対してノーを突きつけられた形になった。すでに近衛内閣は辞職していて、天皇からの指名により東条内閣が誕生した。最後まで和平工作を探っていた東条も「ハル・ノート」には承服できなかった。

資源や国力の勝るアメリカ、イギリスと戦うことがどういうことなのか十分に解っていて、開戦せざるを得なかった天皇と東条の胸中はいかがなものであったのだろうか・・・

そして、開戦を決意し、日本国の正当性と潔癖さを世界に知らしめる為に東条は覚悟した。

戦争が実際に行っている多くの残虐行為はいかなる場合にも正当化されるものではない。しかし、非戦闘員を無差別に攻撃して多大な犠牲者を出したアメリカ軍の広島、長崎原爆投下は許されるものではない。このことは日本ははっきりと謳うべきであり、歴史として子供たちに学ばせるべきである。正しい事実を伝えるということと、非人道的行為を反省して欲しいと言うことである。同じことは日本にもそしてロシアにも中国にも言える。世界平和の基本は歴史を正しく認めた上で、信頼しあうことだろう。

貴史は伊豆に着くまで電車の中で自分が書いた作文の中身を思い出していた。何かが足りないと思い始めていたのだ。

貴史たち一行は途中で昼食を採り、夕方前には修善寺の宿に着いた。夕食までのひと時をそれぞれに自由に過ごしていたが、千鶴子と佳代はなにやら話しこんでいた。貴史は近づいて自分が思っている疑問をぶつけてみた。

「俺の書いた作文はそれなりに評価されたけど、自分ではまだ納得がいかないって思っているんだ」
「貴史さんは何が足らないって感じてらっしゃるの?」佳代はそう質問した。
「ええ、おじいちゃんが残した言葉の真意を書けて無かったって思っているんです」
「真一郎さんの真意?」
「はい、おれは間違っていた、とおばあちゃんに言った言葉です」
「千鶴子さん!そんなことを真一郎さんは残していたの?」

「佳代さん、言わなかったけど・・・そうなの。長い間意味を考えてきたけどわからなくて。貴史との話の中で思い出してしまったのよ」
「千鶴子さんと秀和さんを幸せに出来なかったって言うことなんじゃないの?」
「そう考えたのよね、佳代さん。しかしね、違うの」
「じゃあ、戦争への批判?」
「当たり前に考えるとそうね。でもそうなら、死ぬ間際に言うことじゃないって思えるの。怪我で復員してきて一年近くも経っていたのよ」
「そうね、元気になって初詣にも行ったのよね。戦争への批判ならもっと前に言えることよね」
「そうでしょ・・・なんだったんだろうかって。答えを貴史への遺言にしようかと考えたの」
「遺言?あなたまだ元気じゃない!」
「ううん、きっと夫は未来への希望を言いたかったのよ。おれは間違っていた、だからお前は・・・と続けたかったのよ」