夏風吹いて秋風の晴れ
秋空の下
それから1ヶ月ほど経った秋になっていた。
今日は直美と世田谷の私立の高校の体育館に向かっていた。
1週間前に赤堤のおばさんから弓子ちゃんのバスケットボールの試合があるから時間があったら見に来てって言われていたからだった。
会場の学校がある駅に降りると少しは寒くなってきたけど、まだ秋晴れの日本はそこそこ暖かいって感じで気持ちよかった。
「ねぇ今日の試合って予選?」
後ろから直美に聞かれていた。
「うんと、新人戦って言ってたような・・。3年生がもう部活しなくなったみたいだから、1年生と2年生だけの地区大会って言われた気がする。先週もあったんだけど、そこで勝って、今日だって」
「そっか、じゃあ今日勝ったら優勝?、弓子ちゃんも試合に出るんでしょ?」
さっき、降りた駅で買ってきたアーモンドチョコレートを口にほうりこみながら聞かれていた。
「出ると思うよ。で、決勝だけじゃなくて、今日は準決勝、ほいで決勝だって言った。」
アーモンドチョコレートを一粒もらいながら答えていた。
「そっかぁー決勝戦でれるといいね」
「だねぇー」
「うん、早く行こう!」
直美が少し足早になっていた。
叔母から聞いていた試合時間に遅れていた。
駅から学校に続く綺麗なポプラ並木は目的地に向かって真っ直ぐだった。
有名私立大学の付属高校の正門をくぐっても大会が行われているに不思議なくらいに静かだったけれど、体育館に近づくとそうではなくなっていた。
学校の体育館なのに、二人で中に入ると2階には、きちんと観覧席まであって、田舎育ち僕達には結構驚きだった。東京のお金持ちの子が通う私立学校の施設はケタはずれだった。
「ねぇ、ここでいいよね?」
直美がかろうじで空いている席を探してだった。
体育館の2階席はほぼ関係者、親御さんたちでいっぱいだった。
「うん。もう、試合は後半なんだね」
目の前のコートで弓子ちゃんはボールを追いかけディフェンスをしていた。
だいぶ家を出るのが遅れたから準決勝らしい試合はすでに終わりに近づいていた。
「劉、弓子ちゃんあそこ!」
直美も気づいたらしく声をだしていた。
「わかってるって」
答えながら点数ボードを見ると後半も、最終ピリオドの残り3分を切っていた。点数は2点差で弓子ちゃんたちの学校が劣勢だった。
そしてその点数を確認した直後に、相手チームのインサイドからの攻撃で4点差に差をつけられていた。
「わぁ、入れられちゃった。ねぇ いま、負けてるよね」
直美が少し悔しそうな顔で聞いてきていた。
「うん。でも、まだ時間あるし・・」
「そうだよね。まだ大丈夫だよね?」
「うんうん、大丈夫」
答えたけど、けっこう残り時間からすると、厳しいのかもしれなかった。相手チームが2回ぐらいミスをおこさなけりゃいけないんじゃないかと思っていた。
「ねぇ おばさんたちもどこかにいるよね?」
直美が体育館の2階席を探しているようだった。
「俺たちを呼んだんだから朝からいるんじゃないの・・」
見渡すと右斜め前にその3人家族をすぐに発見できた。叔母も叔父も純ちゃんも一緒に横並びに座っていた。
「直美、ほら、あそこ」
指を指していた。
「あっ、いたいた」
直美がうれしそうに笑顔で答えていた。
後ろからだったからおじの顔はよく見えなかたけれど、きっとドキドキハラハラしてるに違いなかった。
そして、(ふーん、結構静かに見てるんだ・・)って心の中で独り言だった。
大きな声で声援してるかもって此処までくる道の途中で考えていたからだった。
弓子ちゃんは、ガードっていうポジションのようだった。
11番をつけた赤いユニフォーム姿の中学生が必死にコートを駆けていた。
試合は一進一退で、点差は変わらずに進んでいた。こっちがいれりゃ、あっちも入れかえすって感じで白熱していた。
タイムボードは残り時間を確実に減らして進んでいた。
ここからは残り時間との戦いもだからなぁーって思っていた。
残り時間30秒で弓子ちゃんのチームのポイントガードが綺麗なドライブを決めて58-60の2点差に詰め寄っていた。
大きな歓声が体育館に響いていた。
「うわぁ すごい」
直美が声を出していた。
それと同時に相手チームがタイムアウトを請求していた。
「ねぇ、逆転できる?」
直美に聞かれていた。
「うーん。できるかもだけど、とりあえず同点にすればいいんじゃないかなぁー。それでもさ、ここでタイムってことは監督さんから時間をきっちり使ってシュートしなさいって確認の指示が出るんだと思うんだよね。相手チームはルール内の24秒ギリギリでシュートしてくると思うんだよね。そして、それが外れてくれたらだけど、残り6秒ぐらいで弓子ちゃんのチームがシュートを打って入れば同点、もしくは3ポイントシュートを打って逆転を狙うってことかな。」
「そっかぁー それって結構なんだか厳しそうな・・でも、負けるってまだ決まったわけじゃないよね」
「うん、だってさ、相手チームがシュートする前にボールを弓子ちゃんたちのチームが奪ったらまだ時間は結構あるってことも考えられる」
「そっか、パスをとっちゃえばいいんだ」
「そそ」
「弓子ちゃん、それしちゃったらビックリする」
「そういけばいいけど・・・でも、さ、弓子ちゃんたちのチームはこタイムアウトあけのディフェンスは前からプレッシャーを厳しくかけてくると思うからあるかも・・・」
「うーん、少しわかんないけど、応援する!」
直美が元気な声を出していた。
「うん」
返事を返すと、タイムアウト終了のブザーが鳴り響いていた。
ボールがコートにインすると、思った通り、弓子ちゃんたちのチームのディフェンスは前から厳しくあたりに来ていた。
相手チームはドリブルのうまいポイントガードがそれを必死にかわし、味方にパスを何回か回しながら、時間を使っていた。そのあいだも、ディフェンスは厳しく対処していたけれど、なかなかボールを奪うことはできなかった。弓子ちゃんも必死に手伸ばし、積極的なディフェンスだった。
そして、残り10秒から相手チームのベンチからカウントダウンの声が聞こえたいた。
10、9、8
そしてポイントガードは、決めていた通りにチームで1番のシューターと思われる5番をつけた選手にボールをパスし、その選手が右斜めの位置からシュートを放っていた。
これが入ったら致命的な得点だけに放物線を描いたボールを誰もが見つめていた。
そして そのボールはリングの奥にあたり、跳ね、また、リングに当たり、ネットを揺らして得点になった。
残り時間の表示は残り6秒だったけれど、ゲームセットの声が誰の耳にも届いた瞬間だった。館内は大きな歓声とため息と何とも言えない声が混じっていた。
すぐにボールはリスタートされ、赤いユニフォームの中学生は4点差を付けられてもなお、5人で相手ゴールに向かっていた。パスを回し、最後に弓子ちゃんがブザー直前にシュートを放ったけれど、それも、リングに嫌われて入らなかった。
本当のゲームセットのブザーが体育館に響いていた。
「わぁー 惜しかったなぁー 残念だなぁー」
直美が頬を少し染めて声を出していた。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生