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夏風吹いて秋風の晴れ

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お風呂場からは


「あっ、おそろいね、似合ってるね、弓子ちゃん」
直美が弓子ちゃんの胸元に光っていた、つい1ヶ月前までは自分の胸元を飾っていたクロスのネックレスのことだった。
「すいません、遅くなっちゃって、ずっと、言わなきゃって思ってたんですけど、これって、ずっと直美さんがしてたんですよね。おかーさんが 私にこれをって差し出した時に言教えてもらって・・・お礼っていうか、なんていうか・・すいません」
元気な弓子ちゃんにしてはめずらしく小さな声でだった。
「すいませんなんて言わないで。ほら、ねっ、きちんとここにあるでしょ?」
指差して直美は弓子ちゃんにそれを見せながらだった。
「はぃ その話もおかーさんから 聞きました」
「なら、すいませんなんて言わないで。おかげで劉から。ねっ」
「はぃ、大事にします」
弓子ちゃんは、小さく頭をさげて、まっすぐ直美を見ながらだった。
「そうね、あなたの おかーさんがずっと大事にしてたものだからね。そうして。それからちょっと気が早いかもしれないけど、弓子ちゃんが結婚して、女の子が授かったら、その子にね。うん、いいことだもん」
直美が実のおねーさんか、歳の少し離れた従姉妹のってな感じで話していた。
「はぃ、そうします」
「うん。わたしも、大事にして、いつか女の子が生まれて年頃になった誕生日に、きっと、プレゼントするわ」
直美が少しだけ俺のほうを見ながら弓子ちゃんに答えていた。
「はぃ」
いつもの元気な弓子ちゃんお返事に戻っていた。
「で、今夜は泊まっていけるの?明日も学校だろうけど、どうする?久しぶりに泊まっていきなさいよ。少し早起きして、お家に戻ってから制服着替えていけばいんだし・・前に泊まった時みたいにここにお布団敷いて3人で寝よう。いいよね、劉も?」
なんだかうれしそうな声で聞かれたいた。
「俺はもちろんいいけど、叔母さんにも聞かないと・・」
「よし、じゃぁ弓子ちゃん、おかーさんに電話しちゃって」
もう直美は弓子ちゃんの腕をとって、電話まで一緒に彼女を連れて行き、受話器を渡していた。
そうして、受話器を握り締めてながら笑顔を見せた弓子ちゃんを離れてすぐに、こっちに戻ってきていた。
「いいよね。楽しいもんね」
小さな声で耳元でだった。
「うん。だって、これで朝のジョギングって明日はないんでしょ?」
「もぉー そんな事いわないの。あさっては いっぱいその分走るからね」
言われながら、鼻の頭を指で小突かれていた。
部屋の隅では、少しの会話の後に、「はぃ、おやすみなさい」って弓子ちゃんの声が聞こえてきていた。赤堤の叔母の了解をもらったようだった。
「叔母さん、良いっていってた?」
電話に代わればよかったかなぁーって思っていたので、弓子ちゃんに思わず声をかけていた。
「はぃ、大丈夫です。迷惑かけないようにって言われました」
「迷惑なんてかけないわよね。弓子ちゃん。よし、じゃあ 早めにお風呂にして、それから早めにお布団はいって、ごろんごろんしようか。わたし、そういのって大好き」
直美がすぐに笑いながらだった。
「はぃ」
「よーし、そうしようっと。一緒にお風呂入っちゃう?狭いけど、どう?」
ソファーから立ち上がって直美がだった。
「えっ、いいんですか?」
「いいよぉー お湯はもう入れてあるから、先に入っちゃおう」
「はぃ」
「で、その間に、劉は・・ねっ」
言いたいことはわかっていた。ソファーを少し動かして、布団の準備ってことだった。
「大丈夫、完璧にしとくわ」
返事をしていた。
「よし、では いきますか?弓子ちゃん。パジャマは貸してあげるからね」
言いながら直美は、弓子ちゃんの腕をとっていた。
「はぃ」

それから、お風呂から少しだけ漏れてきていた二人の声を聞きながら、こっちはけっこうそこそこに大変なおもいをしながら布団をリビングに並べていた。
ソファーをずらした部屋は布団がいっぱいになっていた。
電話が鳴ったのはそのすぐ後だった。
「劉ちゃん、こんばんは、電話代わってもらわなかったから、ごめんなさい・・・」
電話の声は叔母だった。
「いいえぇ、無理やりに、こっちこそ。朝は早起きして送ってきますから・・俺も学校あるし・・」
「大丈夫よ 送ってもらわなくても・・中学生なんだから、一人で帰してね」
「はい、まぁ 送っていかなくてもしっかりした子だから平気だとは俺もおもうけど、きっと直美が送っていくって言うにきまってますから」
「そう・・わるいわね」
「いいぇ。おかげで朝のジョギングがなくなって、けっこう喜んでるんで・・」
「まだ、走ってるの?」
よく、休みの日には叔母の家まで走ったりしていたから叔母もよく知っていたことだった。
「おかげで、少し体重が昔に戻ってきたみたいだから・・でも、このごろ少し寒いんで・・」
「そうねぇ、風邪なんか引かないようにね」
「はぃ。あっ、弓子ちゃんも直美も、いま、お風呂なんで・・」
「あら、いっしょになの?」
「なんだか、直美が強引に・・叔母さんも今度いっしょに入ってあげたら・・弓子ちゃんと・・」
「えぇー だって・・」
「喜ぶかもしれないですよ」
「そうかしら・・」
「はぃ、叔父さんはやめといたほうがいいと思うけど・・」
「そうね」
笑い声といっしょだった。
「はぃ」
「じゃぁ、直美ちゃんにもよろしく言っておいてね」
「はぃ、早めに寝ますから、ご心配なく」
「ごめんなさいね。よろしくね」
「はぃ。直美いるんで、大丈夫です」
「いつもありがとうね」
「いいえ、こちらこそ。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
叔母らしい電話だった。受話器を置きながら思っていた。
お風呂場からは、急に二人の歌い声が聞こえてきていた。サザンの歌らしかった。夏に流行った歌が大きな声でだった。
にぎやかな夜の気配だった。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生