夏風吹いて秋風の晴れ
自然に笑顔で
その晩は、直美もちょっと疲れていたみたいだったけど、一生懸命にご飯を用意してくれていた。
あいかわらずに、それはおいしく、楽しい時間が過ぎていた。
そして、帰り道に二人で話していたとおりに、食事の時間が終わるのをみはからったように電話が鳴っていた。
「劉、電話。叔母さんかな?」
「うん。そうじゃないのかな。直美でてくんない?丁寧なお礼の電話とか苦手だから・・」
「もう・・」
一言だけ、こっちに向かってあきれた声だったけど、すぐにソファーから立ち上がって電話のほうに直美は向かってあるいていた。
「はぃ、こんばんは、直美です」
「うん、いるんですけど、わたしにって・・」
「いえ、でしゃばっちゃって・・」
「いいえ。ほんとに、良かったなぁーって」
「弓子ちゃんにも たまにはこっちにも遊びにおいでって言ってください」
「はぃ、また 遊びにいきます。すいません 突然帰っちゃって・・はぃ、よーく 言っておきます」
「はい。では 叔父様にもよろしく伝えてください。おやすみなさい」
直美の声しかもちろん聞こえてはこなかった。直美の言葉は少なめで、叔母の話はなんとなく いつもより長いように感じていた。
「叔母さんが よろしくって言ってちょうだいって。それと、叔父さんもうれしそうだったって・・」
受話器を置いた直美がうれしそうな顔をしながらソファーにゴロンとしていた俺にだった。
「そっか、ありがとね、直美」
「いいえぇ。でも、ほんと良かった。叔父さんが 弓子ちゃんたちに おとーさん って呼ばれてるところは少しだけ見たかったけどね」
いたずらっ子の顔だった。
「まぁ 見なくても、そりゃあ うれしそうな顔だったんじゃないのかなぁー」
「そうだね」
「うん」
隣に座りなおした直美はまだ、いっぱいの笑顔を浮かべていた。
「人が幸せそうなのって、いいね。やっぱり笑顔見てるのって好きだなぁー。わたしも、いっぱい笑顔でいられるといいなぁー ねっ、そう思うでしょ?」
「そりゃぁ 泣き顔みたりするより全然いいよ」
「じゃぁ ずーっと笑顔でいようっと」
「それも 少し変かもよ」
「ずーっとって言ったって、ずーっと朝から晩まで笑顔見せてるってことじゃないよぉ。そういう気持ちってこと。そんな気持ちをずっと、おばーちゃんになってもってことよ」
「そっか。うん。そうしてくれてると、こっちもいいかも」
笑顔で直美に答えていた。
「でしょぉお、うん。そうしようっと。劉もそうしなさいね。そうしたら 私も、ずーっとうれしくいられるから」
言いながらずっと直美の顔はすごそこで、にっこりだった。
キスは短くだった。
「直美さん、おかーさんが これって。おいしいから食べてねって。すごーく甘くておいしいいですよぉ」
あんな事があってから1ヶ月がたっていた。月曜の夜8時をまわっていた。
マンションの玄関から部屋の中に直美と入ってきた弓子ちゃんの声だった。
「そう、おかーさんに、帰ったらよろしく言ってね」
「はぃ。あっ こんにちは。おじゃまします」
直美に返事をしながら こっちに頭を下げながらだった。手には、昨日家族4人で梨狩りにいったらしく大きな梨が入った袋を提げていた。
「うん、ゆっくりしてってね。純ちゃんは家?」
「はぃ、一緒に行くっていってたんだけど寝ちゃって・・起こすのかわいそうだし、でも、起きたら怒ってるかもです」
「そうねぇー 」
直美が台所でココアをいれながら返事をしていた。
「あっ、手伝います」
「いいって」
二人が台所に立っていた。
「でも、このごろは、とってもいい子ですよ。手かからないし。あっ、でも、おかーさんには甘えてるかなぁ。それで 私にはなのかもです」
「ふーん、そうなんだぁー ご飯は食べてきたんだよね、弓子ちゃん?」
「はぃ」
「じゃぁ、あったまってね、これで。外寒かったでしょ?夜はもう寒くなってきたもんね」
「ちょっとだけ。でも平気です」
会話をしながら二人がソファーの前に戻ってきていた。もちろん、おいしそうなココアがはいったカップを一緒にだった。
「いただきまーす」
弓子ちゃんが元気な声をだしていた。
「どうぞ。ココアは自信あるのよ。どう?」
「おいしいです」
「そう、ありがと。なんかほっとしていいでしょ?」
「はぃ」
二人の顔をみながら 俺もココアをおいしく飲んでいた。
ちいさく湯気がほんのりとあがっていた。
出会ってから半年もたっていない俺たち3人だったけど、それを忘れるほどに自然な時間だった。
気づかないほどに、弓子ちゃんの口からでていた「おかーさん」って言葉もそれは同じことだった。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生