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夏風吹いて秋風の晴れ

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2人と神父さん


直美に抱えられたタマはうれしそうに、ゴロゴロと小さく鳴いて静かに気持ちよさそうにヒゲまでのんびりとさせていた。
すごく食べる猫だったから、丸まって直美の膝の上におさまっていたけど、大きなかたまりって感じだった。
「大きくなったねぇー 昔はちっちゃかったのに・・」
直美が右手でタマをなでながら、この家にタマが来た頃を思いだしているようだった。
確かに、隣の教会のステファンさんが叔母の家に連れてきた時は、両手ですっぽりおさまっていた体だったけど、今では頭だけどもその大きさのようだった。
「なんか、この猫でっかいよね、叔母さん、なんでも食べさせてるんじゃない。きっと病院とか連れてくと、太りすぎって怒られてると思うよ」
叔母が前に少し、俺に話したことだった。
「でも、かわいいから、いいね、コロンコロンしてて・・」
「そうね」
コロンコロンっていうより、ボテボテって感じにも思えていた。
荷物は全部2階にあがって、叔母さんと弓子ちゃんは、叔父の運転する車で、スーパーに出かけていたから、洋館には2人きりだった。
弓子ちゃんは、夕飯を食べてから、施設に帰る事にしたようだった。俺と直美も夕飯を一緒に食べていくように言われたけれど、遠慮して留守番が終わったら帰ることにしていた。
とっさに、直美が気をきかせて、断ったことだった。
「ステファンさん、来ないね?」
直美に聞かれていた。
「えっとね、お昼に顔出して、鰻を3人で食べたよ」
「えっー いいなぁー」
「そっちも、お昼たべたんでしょ、何食べたの?」
「弓子ちゃんがハンバーグ好きなんだって・・だからハンバーグ食べてきた。和風ハンバーグね」
「なら、いいじゃん 直美も好きなんだし」
「好きだけど、鰻もいいなぁー 今度一緒にいこうよ、そこっておいしかった?どこにあるの?」
「こっちからだと、豪徳寺の手前だな。おいしかったよ。新しいお店みたい」
「へぇー 知らなかったなぁー そんなお店・・」
俺も知らなかったから、当たり前のような気がしていた。マンションは豪徳寺の駅から向こう側だったし、この家に遊びに来る時は、世田谷線で来るか、自転車だったけど、その時は道が違っていた。そのお店の前の道を歩く事はめったにないことだった。
「あっ、こっちに引っ越してから行った事ないけどね、その手前に小さい時によくいった洋食屋さんあるんだよね。今度そこ行こうか?よくオムライス食べたんだけど・・」
「へぇー おいしい?」
「うん、おいしかったはず」
記憶どおりなら、きっと今でもおいしいはずだった。
「じゃぁ、そこ」
「えっ?」
「夕飯そこに行こうよ・・オムライス食べようよ」
「そうだなぁー 久しぶりだから食べようかなぁー きっと10年ぐらい食べてないし・・」
「じゃぁ、決まりね。お散歩しながら帰ろうね。タマちゃんはお家でご飯ね」
目をつぶっていたタマの顔を自分の方に向けながら言い聞かせていた。
タマは、なんのことって顔でうっすら目を開けていた。

「どないやぁー おーい 終わったんかぁー」
2人でのんびりしていると、隣の教会の庭から間違えようの無いステファンさんの大きな声が聞こえてきていた。
「やっぱり、きたね、ステファンさん・・」
俺に向かってうれしそうに声を直美がだしていた。
早く顔を出さないと、ずーっと大声を出されそうだったから、俺はあわてて声のするほうに早足だった。
「どうやぁー 片付いたんか・・」
ステファンさんは、俺の顔を見ると言いながら、もう家に上がりこんできていた。
「こんにちわ、ステファンさん」
直美がタマを横に静かに下ろして頭を下げていた。
「ごくろうさんやなぁー 直美ちゃんも来てはりましたか・・娘もおりますのか?挨拶せんとな・・」
部屋の中を見渡していた。
「みんなで、買い物行ってます、お茶でも入れましょうか?」
言いながら、直美が台所に歩いていた。
「そやなぁー 悪いけど、冷たいの頼むわぁー」
汗を拭きながらステファンサンは自分の家のようにどっかりと、ソファーに巨体を沈めていた。
「今夜はごちそうでっか・・・」
顔を近づけて聞かれていた。
「たぶん、そうだと思うけど・・ダメですよ、教会で夕飯は食べてくださいね」
「あれ、なんでわてだけ、よそもん扱いしますの・・家族ですやろが・・」
「俺も直美も、叔父さんたち帰ってきたら帰りますから」
ちょっと、きつく言ったつもりだった。
「そうなんか・・なんでですの・・楽しくやったらええがな・・」
「3人にしてあげないと・・・」
「あんさんらしいわ、変な気きかせて・・あんさんのいいとこやけど、悪いとこですわ」
「そうですかぁ・・・」
顔を上げて台所から話を聞きながらこっちを見ていた直美と顔を合わせていた。手に麦茶を入れたコップを持った直美が首をかしげていた。
「変な気を利かせてどないしますの・・あんさんの従兄弟になるんやろが・・夕飯一緒に食べるのは当たり前やないか・・」
「そりゃそうだけど・・今日は3人だけのほうがいいでしょ」
「そんなん、遠慮っていいますのや。普通にしときなはれ・・そないせんと、あの子も気使いますよって・・普通がええんですわ」
「そうですかねぇー」
返事をしていると、直美がステファンさんの前に麦茶を静かに出しながら口を開いていた。
「劉、そうかもね・・・ステファンさんの言う事も間違いじゃないかもね・・」
「そうやで・・」
「あっ、でも、今日は3人だけにして帰りましょって言ったのって私なんですよ」
「そうかぁー まぁー わからんでもないけど、普通にしてたらよろしいがな・・直美ちゃん、みんなで、わいわいしましょ・・どうせ いずれは3人だけになりますのや・・」
「はぃ」
返事をしながら直美はこっちを見て、そうしましょって顔を見せていた。
俺は、うんってそれにうなずいていた。
タマは関係ないやって顔で歩き出して少し離れたところで丸くなっていた。自然体って感じだった。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生