夏風吹いて秋風の晴れ
口裏合わせて
それからステファン神父はひとしきり話しをして、お茶を飲み干すと、「ごはんでも出来たころにまた来ますわ」って言い残して、教会に帰っていた。いつもながらの台風のような行動だった。
残った俺たちは、いつものことだなってお互いに思いながら顔を見合わせて笑っていた。
それから、30分ほどのんびり何をするでもなく2人でソファーでくつろいでいると、やっと叔父さんたちが戻ってきていた。
先頭におばさん、続いて弓子ちゃん、最後が手にスーパーの大きな買い物袋を提げた叔父さんだった。
「ごめんね、遅くなっちゃって・・2箇所もまわっちゃったから、なにか変わったことなかったかしら」
叔母が俺と直美に向かってだった。
「ステファンさんが来て、お茶を飲んでいっただけです。もう教会に戻っちゃったけど・・」
「そう」
叔母と叔父さんが台所に立って、買ってきたものを振り分けていた。弓子ちゃんは、直美に言われて、彼女の隣にちょこんと座っていた。
「叔母さん、夕飯何になったのぉー」
ステファンさんに言われていたから、直美との打ち合わせどおりに、俺が叔母に聞いていた。1回断った食事をになんとか参加しないと、後でステファンさんに何を言われるかわかったもんじゃなかった。
気持ちよくは納得はしていなかったけど、今日は、とりあえずはステファンさんの言うとおりにしようって直美と話をまとめたことだった。
「あのね、スキヤキにしたのよ」
長ネギが見えていたから、想像通りだった。
(問題は肉の量かぁー )
頭の中でステファンさんまで食べると、大変かぁーって考えていた。3人分の予定で買ってきたスキヤキの肉がどのくらいなのか想像がつかなかった。
「いいねぇー どれどれ・・」
言いながら、もういいやって思って思い切って台所に向かっていた。それを見てる直美が俺の後ろで顔には出さずに笑っていそうでおかしかった。
「なんだか、いっぱい買ってきちゃったから食べていきなさいよ、どうせ、帰ったら直美ちゃんにご飯作ってもらうんでしょ、劉ちゃんはいいだろうけど、直美ちゃんが大変だから」
助かったぁー って笑顔がもれそうだった。
「うーん、うまそうだなぁー そうしちゃおうかなぁー」
自然に言ったつもりだったけれど、ますます、俺の背中を見ながら直美が腹の中で笑っていそうだった。
「そうしなさい、どうせステファンさんも出来上がった頃にやってくるんだから・・」
叔母のほうが上手って感じだった。
一瞬、いない間の俺たちとステファンさんのやり取りまで見透かされているように思えていた。
「やっぱり、来ちゃいますよね、あの人・・・鼻いいからなぁー じゃぁー ご馳走になっていくかぁー」
言いながら振り返って、直美に同意を求めて話しかけていた。やれやれ、良かったって顔のはずだった。
「そうしまーす、じゃぁ、弓子ちゃん手伝おうか?料理得意?」
「うーん、たぶん出来ないかな・・」
中学生がハニカミながら答えていた。
「でも、やろうね」
直美が椅子から立ち上がると、弓子ちゃんもそれにつられて立ち上がって二人で台所に向かっていた。いれかわりに叔父が台所から出てきていた。
手にはビール瓶とコップだった。俺の分までコップを抱えていた。
「おぃ、こっちで付き合え」
ぶっきらぼうに和室に誘われていた。
「叔父さん、飲んじゃうの・・弓子ちゃんを車で送って行くのかと思った・・」
コップにビールをそそいでいた叔父にだった。
「あっ、そうか・・・すっかり忘れてた」
「じゃぁ やめとけば・・」
「開けちゃったしなぁー」
恨めしそうにコップを見ながらだった。
「うーん、1杯だけならって言いたいけど・・叔母さん見てなかったの?ビールもってくとこ?」
ちょっと不思議だったから聞いていた。
「言わなかったなぁー」
「ちょっと聞いてくる」
和室から台所に向かっていた。1杯だけならいいような気もしたけど、やっぱり叔母に聞かないとって思っていた。
「叔母さんちょっといい?」
手招きして、小声で呼び出しながらだった。
「なに?」
「弓子ちゃんって、今夜は帰るの?」
「どうして?」
「叔父さん、ビール出しちゃったけど・・帰るんだったら車で送っていくんでしょ?」
「あら、どうしよう、すっかり忘れてた」
「まだ、飲んでないとは思うけど・・・」
たぶんそのはずだった。
「あなたぁー 飲まないでくださいねぇー」
大きな叔母の声は和室に向かっていた。
びっくりした直美と弓子ちゃんがこっちを振り返っていた。
叔母は言いながら和室に向かっていた。
「どうかしたの?劉・・」
長ネギを切っていた直美に言われていた。手には包丁が握られていた。
「ほら、弓子ちゃんって今日は帰っちゃうんだよね?」
「はぃ」
弓子ちゃんが返事をしていた。
「それがどうかしたの?」
包丁を置いて直美が少しこっちに近付いて聞いていた。
「叔父さんがビール飲もうとしてたからさぁー 車で送ってくんだったら飲んじゃまずいでしょ」
「ふーん、そっか・・弓子ちゃん、なにか用事でもあるの?ないなら泊まっちゃえばいいじゃない?夏休みなんだし、明日学校あるわけでもないんでしょ?」
「なにもないですけど・・・」
「じゃぁー 泊まっちゃいなよ、そうしたら、ゆっくりできていいじゃない。叔父さんだってお休みでビールも飲みたいんじゃないの?」
「う、うん」
「じゃぁー そうしよう 決まりね」
直美が片目をつぶって、俺の顔を見ていた。
俺は直美に いいのか?って顔をしたけど伝わっているかどうかはわからなかった。
「さぁー じゃぁー いっぱい作っちゃおう。よし、やるよー」
直美が元気な声をだして弓子ちゃんに声をかけていた。それを聞きながら俺は叔父と叔母のいる和室に向かっていた。
和室にいた叔父と叔母に直美とのやり取りを話すと、叔母はすぐに、うれしそうな顔になったけど、叔父は「えっ」って少し驚いた顔をしてなんだか、落ち着かないようだった。
「じゃぁー 叔父さん飲んじゃおう」
俺が言うと
「あっ そうだなぁ」
口にしたけど、上の空って顔をしていた。
うれしいはずなのに、やっぱり緊張しちゃうようだった。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生