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夏風吹いて秋風の晴れ

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2人3人と向こうに1匹


しばらくして、階段を下に向かうと、入れ違いで2人が荷物を抱えて上がってきていた。手にはゴミ箱なんて抱えていた。
「直美手伝おうか?」
「いいよ、そんなにはないし、弓子ちゃんと2人でできるよ、まだ、家具とかはないから部屋に置くだけだし・・」
「そっか、じゃぁ、しばらく下で休憩するわ」
すれ違いに声をかけていた。
1階の部屋では叔父がソファーに座ってお茶をしているようだった。いつもは深々と座っているのに、なんだか、前かがみって感じだった。
「叔父さん、どこ行ってたのよ、出かけるときは声かけてよ・・」
「いや、お前なんだか、ぐっすり寝てたしな・・ちょっと、豪徳寺の駅前まで、ぶらぶら散歩だ」
「ふーん」
手に持っていたケーを買いに出かけたはずなのにって思っていた。
想像だったけど、俺が寝ている間に、叔母が帰る時間と、弓子ちゃんも一緒にいることでも電話で叔父に話したんだと思っていた。
「劉ちゃん・・」
叔母が小声で俺を呼んでいた。
声のした台所に向かうと叔母が笑顔でなにか話したそうな顔をしていた。
「なに・・」
小声で言うと、大きな冷蔵庫を開けて、さっきまで叔父の手に下がっていただろう白いケーキの箱を指差していた。
「あの人が買ってきたのよ・・」
「さっき、2階から見えたから知ってる」
「それも、こんなにいっぱい・・」
確かに、2階では気がつかなかったけれど、大きな箱だった。
「見たらね、10個もはいってるのよ、それも、いろんな種類が・・全部ちがうのよ」
半分叔母は笑いながらだった。
俺も一緒に笑っていた。もちろん叔父にはわからないようにだった。
「弓子ちゃんにおいしいのを食べさせようと、一生懸命考えたんだけど、わかんなくなっちゃったんじゃないですか・・それで、なんでもかんでも買ってきちゃったんでしょ・・」
「そうね・・仕方ないけど・・困っちゃたわ・・こんなにいっぱい。帰りに持って帰って家で直美ちゃんと食べてよ」
「いいけど、こんなには食べられないですよ。それより、弓子ちゃんって今日は施設に帰るんでしょ?だったら、お土産に持たせてあげたら・・・そっちのほうが、叔父さんが買ってきた意味もあるような・・」
「そうね、そうしてあげようかしら・・」
「うん、豪徳寺まで歩いたらしいから、叔父さんが・・そうしてあげて」
「そうね、でも、あの人らしいわね・・」
叔母がまた笑いながら叔父の事を言っていた。たしかにそうかもしれなかった。

「叔父さんも2階にあがってみれば・・カーテンついたよ。カーテンつけただけで、全然雰囲気違っちゃった」
「ほう、何をしてるんだ、2人は・・」
「なんか、買ってきた荷物上げてるんじゃないかな・・玄関にあったでしょ」
「そうか」
「叔父さんも、休憩してないで荷物でも2階に持っていきなよ・・俺は叔母さんのコーヒーでも飲ませてもらうけど」
「うーん。荷物を上に持っていけばいいのか?」
「うん、それでいいんじゃないかな・・とりあえずは」
「でも、2人でやってるのを邪魔してもなぁー 」
「邪魔じゃないでしょ。それより、叔父さんきちんと話したの?弓子ちゃんと?顔に似合わず、恥ずかしいんでしょ・・」
「そんなことないぞ・・大丈夫だぞ」
椅子に急に深ぶかと座りなしてだった。
「だったら、どうぞ・・」
手を広げて笑いながら叔父に言っていた。ちょっとオーバーに役者みたいに手を広げていた。
「じゃぁー もって行くかぁー」
叔父が言いながら立ち上がって荷物が置かれていた玄関に向かうと、直美が2階から戻ってきていた。
「直美、叔父さんも手伝うってさ・・」
叔母がちょうど出してくれたコーヒーカップを受け取りながら、隣に立った直美に小声でだった。
「えっ・・大丈夫だけど・・」
「やらせてあげてよ・・叔父さんあんまり帰ってきてから弓子ちゃんとしゃべってないみたいだし・・」
「そっか。了解。じゃぁー 2人だけでやらせようかな・・私も休憩しちゃおうっと・・」
言うと、直美は台所の叔母さんの所に向かって歩いていた。
ちょうど、直美の姿が台所に見えなくなると、叔父が手にいっぱい荷物を持って、2階にあがっていくようだった。弓子ちゃんは、まだ、2階にいるはずだった。

直美と叔母がコーヒーを抱えて戻ってくると、俺と直美の話は叔母さんに伝わっているらしく、3人で2回目のお茶の時間になっていた。
2階に2人、1階にのんびり3人だった。
「タマいないねぇー 」
ゆっくりソファーに座って周りを見渡しながら直美が誰に言うでもなくつぶやいていた。
確かに朝から、俺も全然見かけていなかった。
「たぶん、教会のお気に入りの場所で日向ぼっこしてるわよ・・」
叔母がだった。
「へぇー どこにいるんだろ・・・」
直美がコヒーカップを手に持って、教会が見える廊下に歩いていた。
「大聖堂の入り口に1番近い大きな木の下にある石の所にいないかしら・・」
叔母が直美の背中に向かって声をかけていた。
「どこだろう・・あっ いた、タマちゃん・・寝てるみたい・・呼んだら来るかなぁー
 タマちゃーん、タマー」
直美の元気な声が教会の庭に向かって響いていた。
「あっ 気がついたぁー」
直美がうれしそうな顔を振り返って見せていた。少しだけ緊張していた気持ちが溶けて、なんだか、とってもいい日曜の気がしていた。


作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生