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夏風吹いて秋風の晴れ

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横になって


それから、直美が一生懸命動き出し、おれも一緒になって、台所と和室を往復して、叔母を和室の奥に座らせていた。
3人の間に居づらいってよりは、なんとなく、そこに俺たち二人がいないほうがいいような気がしていた。

「はぃ、これで終わりでいいですかね?叔母さん?」
お盆にご飯をよそったお椀を運び終えて直美が口にしていた。
「ありがと。直美ちゃん」
叔母が軽く頭を下げながらゆっくりと口にしていた。
「では、いただきますか?」
直美が俺のほうを最初に見て、それから全員にだった。
「うん、そうしよう」
返事をしていると直美が隣に座っていた夕子ちゃんと純ちゃんに小声でなにかを伝えているようだった。
「うん、では、夕子ちゃん、純ちゃんどうぞ」
直美が二人の顔を覗き込みながらだった。
「はぃ、おかぁさん いただきます」
「おかぁさん いただきますぅ」
夕子ちゃんと純ちゃんが続いていた。
夕子ちゃんは恥ずかしそうに叔母の顔をみながらだったけど、純ちゃんはうれしそうに叔母の顔をきちんとみながらだった。
「はぃ いただきましょう 遅くなったわね・・・」
叔母が小さくうなづきながら返事を返していた。
「よーし 食べようっと・・うまそうだわ、叔母さん」
「おいしいわよぉ、いつもどおりに 残さずたべなさいね 劉ちゃん」
「もちろん」
「たくさん 作ったからね」
「はい、いただきまーす」
なんだか、涙がでそうで 陽気に振舞って叔母と会話をしていた。
それに気づいた直美が、
「おいしそうー いただきまーす」
ってすぐに、声をだしてくれていた。
5人の箸が、それぞれの思いで動き始めていた。
古い洋館に少しずつ、少しずつ新しい家族が出来上がっていた。

食事を終えて、叔母の
「直美ちゃんと、劉ちゃんは、のんびりしてね」
って言葉で、俺たち二人はそれに甘えて、和室でのんびりさせてもらっていた。
台所からは、3人の話し声がかすかにこっちにも聞こえてきていた。それは、何を話しているのかはわからなかったけど、まちがいなく楽しそうな雰囲気だった。
「もう、こんなところで横になんかならないでよ・・」
畳の上にごろんと寝転んでいると直美に言われていた。
「だって、食べすぎた・・・」
「もう・・・」
「気持ちいいから、直美もどうぞ・・」
右手にあった座布団を二つにたたんで、口にしていた。
「いいよぉ 恥ずかしいもん」
「いいから、気持ちいいぞぉ。畳・・・よく考えたら久しぶりなんだよなぁー 畳の上に横って・・いいから 早く、直美も・・気持ちいいから」
「うーん」
「いいから」
手を伸ばして直美の腕を握って引っ張っていた。
「もう・・・」
「ほら、いいでしょ。畳の表替えしたばっかりだから、いい匂いだし」
「うん、気持ちいいかも・・」
「でしょ?」
「うん。畳っていいね。久しぶりの感覚」
「うん。昼ねしちゃうか?いっしょに?直美も・・」
「やだぁ、恥ずかしいじゃない?」
「そんなことないだろ」
「劉は寝ちゃってもいいよ。わたしは、横になってるだけで気持ちいいから。しばらく こうしてる」
「いいから、寝たくなったら寝ちゃいな」
「うん。よかったね」
「うん、ありがとね」
「でしゃっばったみたいだけど、いいよね」
「うん、いいよ、ありがと」
直美の左手が俺の手を握っていた。
それを合図に俺も直美もだまって目を閉じていた。

「直美さん・・・すいません・・・」
声が聞こえたのは、二人で1時間も寝てしまった後だった。弓子ちゃんが遠慮勝ちに声をだしていたようだった。
「あっ、ごめん、寝ちゃってた・・・」
「いいです、そのままで・・あのう車のワックスってもう拭いてもいいんですかぁ?叔父さん帰ってきちゃうし・・・」
「あっ、ごめん。そうだよね・・いいと思うけど・・わたし詳しくないんだよね・・劉は寝てるか・・・」
直美が体を起こしながら、こっちに顔を向けたのがわかっていた。
「うん、平気。やろうかぁ・・・」
声を出していた。
「起きてたかぁ?劉も?」
「起きるでしょ。話してれば・・弓子ちゃんもう、綺麗なやわらかい布で乾拭きしていいよぉ」
弓子ちゃんの顔を見て答えていた。
「はぃ、じゃあ やっちゃいます」
「手伝おうか?わたしも劉も?」
「大丈夫です。純ちゃんやるってきかないから、おかーさんも一緒にするみたいだし・・」
「そ、おかーさんもね」
直美がうれしそうその言葉を口にしていた。
「はぃ」
「じゃぁ、お邪魔だから、わたしは劉とここで甘えてるから・・」
「はぃ、じゃぁ やってきます。ゆっくりしててください。ごめんなさい、起こしちゃって・・
「ううん、いいわよぉ。あっ、弓子ちゃん、あとは自分でやってね?」
「えっ?はぃ」
「車じゃないわよ、間違えないでね。叔父さんって言ったでしょ?さっき?そっちだからね・・・出来るでしょ?」
「うーん、はぃ」
首をかしげながらだった。
「叔父さんが帰ってきたら、一緒に純ちゃんと並んでね、すぐに言っちゃいなさい。おとーさんおかえりぃって。それならできるでしょ?」
「はっ、はぃ」
「叔母さんにも言って3人で並んでお迎えしちゃいなさい。ねっ」
「はぃ。わかりました。ありがとうございました、ほんとに・・・」
「いいえ、がんばってね。じゃぁ、ごめん。ここでゆっくりさせてもらう。気持ちいいんだもん」
「はぃ。ゆっくりしてください」
「うん」
弓子ちゃんの足音が遠ざかっていた。
「ねぇ、」
直美が起こしていた体を横にしながら近づいてきていた。
違う意味でも甘えてきていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生