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夏風吹いて秋風の晴れ

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窓から外を


白い箱を持って家に向かっていた叔父を2階の窓から2人で眺めていた。
少しだけ足早な叔父は真っ直ぐに石造りの門を抜けて家の玄関に歩いていた。こちらには気がついていないようだった。
「あれって、なんだろう・・手に持ってるのって」
窓から顔を引っ込めながら直美に聞いていた。
「ケーキでしょ、たぶん・・それか、お菓子・・でも、やっぱりケーキ屋さんの箱だなぁー」
「えっ、ほんと」
「たぶん、そうだと思うけど・・・弓子ちゃんが来るって知ってたのかもね」
話しながら直美が新しい買ってきたばかりのカーテンを床に広げていた。薄い黄色の明るい色に小さな花柄が模様されていた。
「かわいいでしょ、中学生らしくて・・」
「直美が選んだの?」
「弓子ちゃんと2人で・・だって私の部屋じゃないもの、でも、意見あったけどね」
広げたカーテンの下を直美が持って、俺がフックにそのカーテンをかけていた。サイズは叔母がはかっていたらしく、ぴったりだった。
下の階からは戻ってきた叔父の声がかすかに聞こえていた。
「うん、綺麗、かわいいね」
2枚のカーテンを下げると、窓から離れて部屋の真ん中に立って直美とカーテンを眺めていた。
「うん、いいね、外から見てもかわいいかもね」
外から見た洋館の2階の窓を想像していた。
「弓子ちゃんに 見てもらおうか・・結局2人でつけちゃったし・・弓子ちゃーん」
下の階に向かって直美は少し大きな声を出していた。
「はーい」
「カーテンつけちゃったんだけど、見てみてよぉー 上がっておいでよぉー かわいいよぉー」
階段に近付いて、直美が声を出していた。
「はぃ、今いきまーす」
明るい声が2階に届いていた。すぐに階段を昇ってくる足音と一緒だった。

「うわぁー これにして良かったです」
部屋に入り口で中学生が声を出していた。
「弓子ちゃん、そんな所にいないで、中にはいりなよ、窓から外もみてごらんよ、隣が教会だから、お庭も芝生も広がってるし、お花も咲いてるし、綺麗ですごーくいいよぉー」
直美が部屋の入り口に遠慮がちに立っていた弓子ちゃんに声をかけていた。
「はぃ」
「カーテン開けて外みてごらん、眺めいいんだよ、ここって」
直美が窓に近付いて来た弓子ちゃんの後ろに付いて、話しかけていた、俺はそれを笑顔で見ていた。なんだか仲のいい姉妹のようにも見えた。直美も弓子も今日が初めて会ったはずなのに、すっかり打ち解けているようだった。
俺は、まだ、なんだか自分でもぎこちなかった。
「ほんとだぁー お庭広いんですね・・」
「いいでしょ、東京だと、隣の家がすぐだから、こんなにいいとこってないよねぇー」
「はぃ、お花も綺麗ですね・・」
「冬は無理だけど、春から秋までは、ずーっといろんな花が咲いてるよ。この前までは、そこに背の大きなヒマワリも綺麗だったなぁー 教会の人も手入れしてるみたいだけど、叔母さんも手伝っているみたいだから、弓子ちゃんもお花育ててね。私は見るから・・」
笑顔を直美が弓子ちゃんに見せていた。
「はぃ」
弓子ちゃんも笑顔を直美にだった。
「家具は今日はこないけど、買ってきたものはこの部屋に上げちゃおうか?」
「はぃ」
「そうしようか・・・叔父さん帰ってきたんでしょ?」
「今、戻ったみたいです。叔母さんになんか言われてたけど・・」
「やっぱり、ケーキ買ってきちゃってた?叔父さん?」
「たぶん、そうだと思います」
「そっか」
直美が俺の顔を見ながら弓子ちゃんの話を聞いて笑っていた。俺もそれに笑って答えていた。たぶん、叔父なりに気を利かせたはずだった。
「今日は、泊まらないんでしょ?」
直美がカーテンを包んでいたビニール袋を片付けながら弓子ちゃんに聞いていた。
「はぃ、帰ると思うけど・・なにも持ってきてないし」
「そっか・・いつお引越しだっけ?」
「今週の土曜日です」
「土曜かぁー バイト入ってるなぁー 夕方なら手伝えるけど終わっちゃってるかなぁー
 劉はバイトは?」
綺麗にゴミを片付けながら聞かれていた。
「たぶん、バイトのはず・・同じく夕方までかな」
「休みじゃないの?手伝わなくていいわけ?」
「言われてはないんだけど・・・どうなんだろう・・でも、今日も急に言われたから、後で言われるかもね・・」
「そっか、手伝ってあげたいんだけどなぁー わたしも・・休み変れるかどうか聞いてみるね。休めたら手伝ってあげるね。劉も休めたら手伝いなさいね」
「そりゃぁ、バイト先は叔父さんの会社だから休めるかもしれないけど・・今はわかんないよ。休めたら手伝うよ」
たぶん、あとで、叔父に手伝うように言われるような気はしていた。
「うん、よし、じゃぁ、買ってきたのを持って来ようか?」
俺たちの話を聞いていた弓子ちゃんに直美がだった。
「はぃ」
元気な返事をすると、弓子ちゃんは先に歩き出していた直美のあとを追いかけていた。
すくっと、歩く姿は、前に会った時に受けた印象どおりに元気な活発そうな女の子だった。
向こうは、俺にそんなに緊張はしてないようだったけど、俺はまだ、少し話すと緊張していた。
たぶん、叔父はもっとだろうと思っていた。
開けていた窓からは風が入って、つけたばかりのかわいいカーテンを揺らしていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生