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夏風吹いて秋風の晴れ

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大好きで


結局ずーっと食事をしながら悩んでいたけど、どうにも結論ってでなかった。
言い出したのは、一緒に横になった夜中のことだった。
思い切って言い出していた。
「明日、6時ちょっと前に会社にこれないかなぁ・・一緒に行きたいところあるんだけど・・どう?」
「えっ・・なにぃ・・めずらしい言い方で・・」
目を閉じていた直美がその目をひらいてこっちを見ながらだった。
「えっと、銀座・・・」
「なに?お買い物でもするの?銀座なんてめずらしいね」
声がすこしだけ大きくなっていた。
「うん、そうなんだけど・・いいかな、付き合ってもらっても・・」
「うん、いいよ。5時50分ぐらいでいいの?」
「うん、それで大丈夫」
「はぃ。で、どこいくの?」
素朴な疑問のはずだった。銀座なんてそんなに二人でいったことなんかない場所だった。
「行くまで内緒ってのは 変だよね?」
「うん。変だけど・・」
「でも、それでもいい?」
「うーん、いいけど、なんとなく ヤダなぁー そういうの嫌いでしょ?劉も?」
言われたとおりだった。自分でもそう思っていた。
「そうだよねぇ、それも寝るときだもんね」
「うん。どうしてもっていうならいいけど・・でも、いやなことじゃなきゃ言えるでしょ?」
「うん、でも、やっぱり秘密でいい? いやなことじゃないし、楽しみにまっててくれるとうれしいんだけど?どう?」
「いいことならいいよ・・うん、じゃあ 楽しみにしてていいんだよね?いいことなんでよ、なら、いいよー」
「うん、ありがと、じゃぁー夕方、一緒にね」
「うん」
返事を聞いて直美を抱きしめていた。
9月になって、すこし涼しくなって、直美を抱きしめていてもほんわかで、とても気持ちよかった。
それから、直美をしっかり抱きしめて、長いキスを始めていた。唇からうなじに、それから碧いパジャマを脱がせながらだった。
見慣れたはずの口元も、うなじも、胸も、飽きることなく好きだった。もちろんその声も、俺の体にまわす手もすべて今でも大好きだった。
「りゅうぅう」
って言う直美の言葉は聴くたびに好きになっていた。

土曜日になって朝から、店長には6時ちょうどにあがりたいって、説明をしていた。もちろん俺にとっては定時の時間だったけど、やっぱり、そうはいかない日もあったから、しっかりとお願いをしていた。店長は快諾をしてくれたけど、夕方になると、祈っちゃいけないんだろうけど、なにもなく6時にあがれますようにってだった。
「柏倉くん、もうあがってもいいよ。用事あるんでしょ?」
店長に言われたのは夕方の5時45分だった。
「あっ、すいません。いいですか?」
いけないって思ったけど、うれしい顔で返事をしているはずだった。
「ほら、彼女着てるし」
言われた先には直美が見えていた。ちょうど、ドアを開けるところだった。
「あっ すいません。じゃあほんとに・・」
言いながらもう、席をたって、直美のほうに向かっていた。ちょうど入ってきたところで、二人で店の中に頭を下げて外にだった。
「ちょっと、時間ぎりぎりだから」
直美に言って駅に向かっていた。
下北沢から井の頭線にのって、それから地下鉄銀座線にだった。
お昼には宝石店に電話をいれて、閉店間際になっちゃうかもしれないけど、必ず行きますって連絡を入れていた。電話にでた社長さんの娘さんは、「待っててあげるから」って言ってくれていた。
時計をみると、地下鉄の駅から出て、いそいでもほんのちょっと前にしか到着できそうにはなかった。
直美は地下鉄のなかでも、具体的な場所とかは聞かなかったけど、何度も、「いいことあるの?」っていたずらっこのように俺に聞いてきていた。いつもの大好きな笑顔だった。
「こっちね、あと、ちょっとだから・・」
しばらく歩いて思い出しながら銀座の人ごみを歩いていた。ひとごみっていっても、それは銀座って感じだった。
「うん、なんか綺麗な人とか多いね、やっぱり銀座だね・・」
「そうかぁー」
時間が気になって、そんなものは見ていなかった。
「えっと、あそこね、ごめんねいそがせて・・」
「大丈夫、あそこなの?宝石屋さんみたいだけど・・・」
「うん、あそこ・・」
つないでいた手をぎゅっと握り締めていた。

店に直美を連れて中にはいると、社長さんと、お嬢さんが笑顔で迎えてくれていた。
「すいません、遅くなっちゃって・・」
「いいえ、お待ちしておりました、どうぞ、こちらへ・・さぁ、お嬢さんも、どうぞ・・」
社長さんが、みずから、直美にどうぞって合図をしてくれていた。
直美はきちんとそれに答えて挨拶をしていた。
でもすぐに店の中を見渡していた。
前回座った椅子に並んで直美と一緒にすわると、小声で直美が、
「ねぇ、なに?」
聞いてきていた。
それに返事をかえそうとする前に、お嬢さんが、笑顔で直美にだった。
「うん、いらっしゃい。似合いそうね、ちょっと待っててね、今すぐにお持ちしますからね」
って話しかけていた。
直美は、「はぃ」ってきちんと返事をしてから、
「ねぇ、なにぃ?」
って小声で俺にだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生