夏風吹いて秋風の晴れ
どうすればいいか
叔父に話して、恥ずかしかったけど、バイト代を前借して、約束のお金はなんとかぎりぎりで出来ていた。
本社から回ってきた書類に判子を押す時には、もちろん店長に「どうした?」って聞かれたけど、「ちょっと」ってごまかしていた。
そんなことがあって、ちょっとやきもきしながらだったけど、部相応な買い物が出来上がる約束の日をずっと待っていた。連絡を待ってこっちから電話をかけたりするのは遠慮していた。
銀座の高級なはずの宝石店の社長さんの娘さんの堀井さんから電話があったのは、そんな金曜日の遅い時間だった。
「出来たわよ。どう?取りにこれるのかしら?」
時間は6時半を過ぎていた。
「7時まで、ここにですから・・・えっと、何時まで開いてらっしゃるんですか?お店って?」
「7時までなの・・そこって、下北沢だったかしら?」
「あっ、はい。そうですか7時までですか・・あのう朝って何時から開いてらっしゃるんですか?」
今日は無理って思いながらだった。でも、明日の土曜日も朝からここでバイトだった。
「10時から開いてるわよ。明日来られるかしら?明日ならずっと私もいるわよ。出来上がりの感想聞かせて欲しいし、待ってるわ」
「えっと、明日もここでずっとバイトなんです。今日は学校帰りからなんですけど、明日は学校休みだから、朝からずっとなんですけど・・早めに上がらせてもらうようにお願いしてみますけど、明日の夕方にならないと、いけるかどうか、はっきりしないんです。混んじゃったらどうにも動けないかもしれないし・・」
本当のことだった、気持ちはいますぐにでも駆け出して取りにいきたかったけど、それは現実的には無理なことだった。
「そう、じゃぁ これる日がきちんと決まったら連絡もらえるかしら?やっぱり感想ききたいし・・ね、電話ちょうだいね」
「あっ、えっと、なにがなんでも明日までにはう受け取りたいんで、なんとかします。でも、それでも行くのは閉店ぎりぎりにしかいけないと思います」
「そう、都合あるのよね、私って、忙しくつくらせられたんだものね。大丈夫?明日こられるの?」
「今は、なんとかしますってことしか言えないけど、大丈夫です」
どうにもこうにもなんとかしなきゃだった。
「そう、頑張ってね。綺麗に出来たから期待していいわよ。よかったら一緒にこれをつけてもらえる彼女もどうなの?みてみたいし・・」
「えっ、えっとぉ それは・・」
確かに明日と明後日は直美はバイトは連休のはずだった。
「よかったら いらっしゃいよ、つけてもらったところ見て見たいわ」
「うーん」
ちょっと考えていなかった事なので、返事に困っていた。
「そうしたら、1番綺麗に見える長さでチェーンの長さもすぐに調整してあげるわよ、どう?いらっしゃいよ、お金の受け渡しを彼女の前でっていうのを気にしてるなら、そんなものはいつでもいいのよ、どうかしら?考えてみてね」
「あっ、はぃ、ありがとうございます、考えさせてもらいます」
「それでは、お待ちしてますから」
「はぃ、ありがとうございました」
電話を握って深々と頭を下げていた。
バイトを終えて、マンションに戻っても、まだ直美はバイトからは戻っていなかった。今夜も9時までバイトのはずだった。
直美のほうが遅いときは、夕飯を準備するのが普通だったから、台所にたっていた。たっていたって言っても、帰りによって買ってきたお惣菜をお皿に並べなおすとか、暖めなおすとか、そんな程度しかできなかった。でも、きちんとお味噌汁はいつも作っていた。
ちょっと、スーパーでのんびりしていたし、下北沢の店を出たのも遅かったし、時間はもう直美がバイト先から戻ってくる時間になっていた。
ちょうど、なんとか、出来たかなっって時に、直美が元気な声で部屋に戻ってきていた。
「おかえり、おつかれ」
部屋に入ってきた直美にだった。さすがに学校帰りにバイトをこなしてくると、疲れたって顔だった。
「うーん、忙しくってさぁー 今日・・疲れちゃった・・」
「どうする、すぐに食べられるけど」
「着替えてくるね、すぐに戻るから」
言い残して直美はカバンは置いて、3階の自分の部屋に戻っていくようだった。
後姿に、「早くねー」って声をかけていた。
小さなダイニングテーブルに料理を並べて、準備を済ませると直美が着替えて、戻ってきていた。手にパジャマを抱えてだった。
「今日も泊まっちゃおうっと・・」
「うん、いいよ、さっ食べようか?」
「うん、えっと、しょうが焼きは劉がつくったんでしょ、で、このポテトサラダとほうれんそうの胡麻和えはスーパーってことかな・・うん。でも、おいしそうだね。いただきまーす」
直美の言うとおりだった。
「あっ、これも俺が・・」
「それは言わなくたってわかるわよ」
味噌汁の事だった。
「うーん、おいしいね、このしょうが焼きって、劉が初めて作ったときから大好き。おいしいもんね」
「そっか、うん、よかった」
おいしそうに、直美は口にしていてくれたし、俺もそれを口にしていた。今日もそこそこの出来だった。
でも、ちょっと悩んでいたのは食事をしながら、さっき宝石店の人に言われたことだった。
明日、直美と出来上がったクロスのネックレスを受け取りに一緒にいこうか、それとも、渡すのは2人っきりの時がいいのかって事だった。
電話のあとに ずっと考えてたけど、どっちが直美が喜ぶのかってまったくわからなかった。うん、そういうことは苦手だった。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生