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夏風吹いて秋風の晴れ

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こんな場所でなければ


「えっと、待ってて・・」
直美に聞かれた返事に答えて、俺たちから離れていた社長さんの所に向かっていた。お金を直美に見つからないように支払おうとしてだった。
なにか書類に目を通していたようだったけど、近付いて直美にお金の受け渡しを見られたくないんでって、小声で事情を話すと、社長さんは、小さな声で、
「では、今度いらっしゃる時に、いかがですか?こちらは、それで充分ですよ、そういたしましょう」
って笑顔だった。
「でも、用意してきましたから」
って答えると、
「いいんですよ、後で。お客様は信用しております」
って言ってくれていた。
もちろん、それは俺の信用ではなく、叔母や叔父の信用なのはわかっていた。でも、その言葉に素直に返事をしていた。
頭をきちんと下げて直美の所にもどると、ちょうど娘さんが小さな黒い箱を手に戻ってくるところだった。その中身は想像できていた。
「さてと、彼女でいいのかしら?えっと、ごめんねさっき名前聞いたんだけど・・・」
向かい合った椅子に座って直美にだった。
「はぃ、直美です。はじめまして」
横に座っていた直美が、あわてて席をたってきちんとお辞儀をしていた。
「良かった、綺麗な子で。そんなこといっちゃいけないか・・はぃ、堀井です、よろしくね」
言いながら名刺を差し出していた。俺にもだった。
そこには、堀井 静香って名前が書かれていた。
「はぃ、ありがとうございます。こちらこそ」
直美と一緒に返事をしていた。
「挨拶は終わりね、さっ、見てもらおうか・・」
黒い箱に手をかけていた。
直美は興味ぶかそうに、その手元を見ているようだった。もちろん何かのジュエリーが出てくる事はきっと、気づいているはずだった。
「あっ、えっ」
直美が驚いた声をだしていた。
「どうかしら、これでいいかしら、気に入ってもらえるかな・・」
開けた箱を直美のほうに差し出していた。
「劉、なにぃ、これ・・・わぁー 綺麗・・」
言いながら、直美の目は箱の中身をだった。出来たばかりのクロスのネックレスはいろんな光を輝かせていた。それをみている直美の瞳も輝いているように思えた。俺にはそう見えていた。
「どうかしら、してほしいんだけど、ちょっと立ってもらえるかしら?」
「えっ、わたしですか・・」
「そうよ、だってあなたがしてくれるんでしょ?」
「えっ、わたし・・・」
堀井さんに答えて、それから顔をこっちに向けていた。
俺は、うんってうなずいていた。
「さっ、どうぞ」
うながされて直美がたって、その首に箱から出された新しいネックレスが堀井さんの手でかけられていた。直美はじっとしていた。
「うん、お似合いよ、どう?こっちいらっしゃい、直美さん」
直美が言われてついていった場所には全身がはいる大きな鏡と、その横には上半身がはいる、鏡が置かれていた。
「うん、綺麗よ、どう?印象は?」
「はぃ、綺麗です」
「そう、よかった・・ちょっと、小ぶりになっちゃったけどね、ほんのちょっとだから・・これぐらいが綺麗かなと思って、勝手に少しだけちいさくしてみたの・・わかる?」
「はぃ、ほんの少しですよね・・」
「うん、普通だと気づかないかもね。ずっとしてたんでしょ?このオリジナルを・・」
「はぃ、3年ですね・・大好きだったので・・それにいろんないい事あったから・・」
「では、きっと、これもいいことあるわよ、だって、彼からのプレゼントですもね。いいね」
「あっ、はぃ」
返事をしながら後ろにたって直美を見ていた俺のほうを振り返っていた。直美の表情が輝いて見えていた。
「ほんのちょっと、短くしてもいいかな・・これぐらいで、どう?」
チェーンをちょとつまんで直美にみせていた。
直美は鏡の中の自分を見ていた。そして、
「はぃ」って返事をしていた。
「ちょっと、はずすね、少し時間ちょうだいね、直してきちゃうから・・」
言うと、直美の首からそれを、さっと、抜いて奥に向かっていた。
直美はそれをみてから、こっちにきちんと顔をむけて俺に話しかけてきた。
「劉、いいの?」
「うん、だって、なんかさぁー ないとさぁー ・・・それ つけてる直美好きなんだよね。だから、つけてよ。いいでしょ?」
「ありがと、言ってくれればいいのに・・・かくしてなくてもいいのに・・」
「なんか、恥ずかしくって・・・」
「でも、ありがとう、すごーく、うれしい。ほんとに」
「うん、これからもずっと、それつけてて」
「うん」
「でも、これって・・大丈夫?高いんでしょ・・」
「うん、でも、大丈夫。ずっとしてくれるならいい。それに、恥ずかしいけど、安くしてもらったから・・・それと、隠さないけど、叔母さんに返すのよりは、きっと、石のグレードも下がってると思う」
正直にだった。
「いいよ、劉がプレゼントしてくれたんだもの・・わたしにはそれで充分よ。ありがとう」
「うん」
「あのね、今すぐにでも抱きついてキスしたいけど、もう少し我慢するね。ちょっと、ここだと恥ずかしい」
近付いてきて、耳元でほんとに小さな声でだった、もちろんその声は恥ずかしそうで、それでうれしそうな声だった。
もう、俺にはそれで充分で、何よりもうれしかった。
こっちが今すぐにでも直美を抱きしめそうだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生