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夏風吹いて秋風の晴れ

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強引じゃなく強引で


ずいぶんと久しぶりに叔父と歩いているような気がしていた。特に電車になんか一緒に乗ったのは記憶に無いぐらいの事だった。
電車の中での話は、弓子ちゃんのことと純ちゃんのことがほとんどで、2人とも元気そうな内容だったし、特に弓子ちゃんは部活で入ったバスケットボールに夢中になっているのが、叔父の話から充分に推測できていた。
2人の話をする叔父はうれしそうで恥ずかしそうでの顔だった。
電車は豪徳寺にすぐにたどり着いていた。
右にまがって少し歩いて、暖簾が真っ白な小料理屋に叔父のあとに続いていた。
馴染みの店らしく、板前さんも女将さんらしい人も、気さくに叔父に声をかけていた。俺は頭をさげて、電話を借りて、直美のバイト先に電話を入れて場所を説明していた。9時過ぎには自転車でやってこれそうだった。
座敷に戻ると、もうビールが運ばれていて、小さな小鉢のお通しと枝豆がもう並んでいた。
「これるのか?直美ちゃんも?」
「はぃ、9時過ぎにすぐにこれるみたいです」
時間は8時半をまわっていた。
「それじゃ、飲むか」
言われて叔父のコップにあわててビールを注いでいた。終ると叔父が俺にビールを注ごうとしたからまたあわてて自分で自分のコップにビールをだった。
「さっ 飲むか?」
「はぃ、お疲れ様です、頂きます」
頭を軽く下げてビールを口にしていた、もう秋が目の前だったけどまだまだ暑い日が続いていたから、それはすごくおいしかった。
「で、直美ちゃんはいづれにしろアメリカ留学するんだろうけど、お前は就職はどうするんだ、もう、そろそろ決めておかないと・・この前は断られたんだったな、うちの会社は・・」
「そんなに理由はないんですけど・・なんか、そういうのってあんまり好きじゃないし・・わかるでしょ?そういう性格なの?」
「まぁー わからんでもないがなぁー でも、うちにどうだってのは、甥っ子だからってことではなくなんだが・・・どうだ、もう1回考えてみないか?」
ビールをぐっとあけながら叔父に言われていた。
「うーん、でも、叔父さんもやりづらいでしょ?俺はそうでもないんだけど・・・」
「俺はお前と血つながってるから、同じでそんなことは気にならないが・・」
たしかにそうかもしれなかった。そんな事を気にするような人ではないのはもちろんわかっていた。
「でもね、ほら、弓子ちゃんが叔父さんの家にやってくる時にも、なんかいろいろ言われたし、きっと俺の耳に入らないところで、本社でもいろいろね。まぁ、そんなのは気にしてないんだけど・・でも、きっと叔父さんの会社に入ると、叔父さんも何か言われるかもしれないですよ?周りの人にいろいろ・・縁故いれたとか、そういうの・・」
「そんなのは、お前が仕事できれば問題ないだろ、それにあの会社でも、しっかり働いてるし、本社でも評価高いはずだが・・・俺は、甥っ子だから会社にどうだって言ってるんじゃなく、使いたいからだぞ、縁故で就職なんかさせるつもりじゃないぞ・・」
「うーん、そう言われると・・・」
返事に困っていた。
「そりゃあ、正直に言えば、お前を会社にいれて後継者になってくれればと思うが・・」
空になったコップにビールを注いでそれを飲みながら言われていた。
「うーん、でも、それは・・言い方悪いかもしれないけど、弓子ちゃんの将来の相手が後継者のほうがいいと思うけど・・そうなって欲しいと思うけど、俺は」
「そりゃ、そうだろうが・・・まだまだ先のことだし、わからんしな・・それにさっきも言ったが、そればかりでお前を会社にってことではないんだ。まぁー 無理強いはしないが、考えてくれ」
「うーん」
ちょっと首をひねってあいまいな返事をしていた。
少し話が途切れた時にきちんとしたタイミングで、刺身やら料理が運ばれてきていた。
「まぁー もう少し考えておきますけど、断っても怒らないでくださいね」
「怒ったりするわけないだろ・・」
叔父が初めてこの店にきてから笑いながら俺に返事をしていた。
叔父の気持ちはうれしかったけど、やっぱりいろいろ複雑だった。叔父の家に弓子ちゃんって子がやってきたことを知らない社員は、今でも俺のことをいずれ会社にきちんと就職して、次期後継者なんだろうなーって見てる人はもちろんいたし、養女が来たってことを知ってる人でも、それはあまり変わりないのもしっていた。そんな目で見られるのは、平気といえばそうだったけど、やっぱり、なんか、いやだった。
「早くくるといいな、直美ちゃんも・・」
「すぐに来ますよ、自転車こぐのはやいですから」
本当の事だった。
「あっ、直美きたら会社の話は・・・」
「あぁー そうだな・・わかった・・じゃぁー相談なんだが、もう1件店開けようかと思ってるんだが・・・どうだ?」
「えっ、また?」
「またって・・・小田急線沿いに広げる計画だぞ、最初から・・思ったよりは順調だがな・・今度は遠いんだが、海老名か相模大野の駅前あたりと思ってるんだが、どうだ?短大とか大学も多いしな・・」
「いいかもですね、で、誰を店長にですか?」
「少し離れてる事もあるし、規模も少し大きくしたいから、今のお前のところの店長どうだ?」
「えっ 店長ですか?家遠くなりますよ・・いいんですか?」
「まぁー 若いし、引越し先は用意できるだろうし、ま、通えん距離でもないだろう 今の場所からも・・」
確かにそうかもしれなかった。
「で、本店は?どうするんですか?」
下北沢の店のことだった。疑問だった。
「それ、お前やれ」
「はぁー」
思わず言葉にしてたけど、ほんとうに、はぁーーーだった。こっちはバイトの大学生なんだけどって。
「はぁー じゃなくてな、よーく考えてみろ、あの会社でお前は最初からいるんだぞ、それに4年生になりゃ、週に2回も学校いけば平気だろ?なんとか出来るだろ、時間のほうも・・」
「でも、まだ、3年生なんだけど、今、俺」
「店あけるのは春だ、だから平気だ。これは辞令だから」
辞令ってなんだよだった、社員でもないのにだった。
「あのう・・それって・・・」
「まぁ、さっきの話はとりあえずいいとして、こっちの話は先に受けろよ、わかったな・・バイトのままでいいから、店長でな・・」
わけのわからない言い方だった。そんなのありかよって思っていた。
ちょっと、呆れて返事をやめていた。どうにもこうにもだった。
「こんばんわー」
呆れて叔父の顔をみていると、そんなことはしらない直美の元気な声が店の入り口からだった。
「おっー ここだぁー」
叔父はしってるのに、元気な声だった。
直美の笑顔がほんの少し救いだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生