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夏風吹いて秋風の晴れ

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いやな話で


銀座の宝石店に行ってからちょうど1週間がたっていた。朝に生活費を下ろした普段の銀行口座は残高が26万とちょっとになっていた。支払う約束のお金からだんだん遠のいていた。
バイトのお金が入るのはまだ、先のことで、手元に出来上がる日には間に合わないことだった。
(どうしようかぁなぁー・・・)
ってバイト先の机に向かった考えていた。もちろん、事故でもらった保障金に手をつければ何も問題のないことだった。自分でもこだわってるのが少しなんだか、ばかばかしくもあったけど、でも、昔に決めた事を守りたかった。
でも、それを守るには現実的にお金がなかった。
(バイト代って前借できねーかなぁー)
って考えていた。

お昼を過ぎて思い切って叔父に頼んでみようと、電話をかけていた。店長は休みだったし、みんなが外にお客さんをご案内をしている間を狙ってだった。
運よく、秘書室から1回で叔父につながっていた。
「おつ、めずらしいなぁー どうした?こっちも電話をかけようと思ってたことだ・・」
大きな声が受話器から聞こえていた。
「あのう、仕事がらみっていうか、個人的っていうか、頼みがあるんですけど・・」
「なんだ、電話でいいなら、聞くけど?それとも夜にでも会うか?今夜ならいいぞ・・・」
早口でまくしたてられていた。
「うーん、じゃあ 時間もらえるなら・・・」
考えながら返事をしていた。
「じゃぁ 何時だ?そっち?7時ごろにそっちいく、それでいいか?」
「あっ、はぃ」
あわてて返事をすると、
「よし、あとでな」
って電話を切られていた。

電話を切られた後に、自分から電話をしたけど少し反省していた。叔父と時間作って話しなんかするくらいならやめればよかったって思っていた。もしかするとまた、就職の話でもでるようだったらめんどくさいってだった。
それから、けっこう忙しく仕事をこなして、夜の7時になって会社を閉めて、叔父というか社長を1人で待っていた。夕方に直美のバイト先に電話をして、事情を説明していた。彼女は今夜は9時までのバイトの日だった。
30分も待ってやっと叔父が現れたのは、めずらしく社用車ではなく歩いてでだった。
「遅くなったな、さ、いくか?」
「車は?叔父さん?」
「たまには、早くかえらせてあげないとな・・夕方に代々木上原で車を降りて帰ってもらたんだ」
「ふーん、そうですか・・まぁーたまに歩くのもいいでしょ?」
「生意気な口きくようになったな・・どれ、豪徳寺あたりまで帰ってから飲むか?直美ちゃんも呼んだらどうだ?」
「あっ、バイト9時までだから・・それからならだけど・・でも、内緒の話あるんで・・それ済んでからでいいなら・・」
少しだけあわてていた。
「なんだ?長くない話なら、ここで済ませて、それから移動するか?どうだ?」
いいながら空いている椅子に叔父は腰をおろしていた。
「言いづらいんですけど、あのうバイト代って前借できないですか?全部じゃなくていいんですけど?」
「なんだそれ・・お金ないのか?あるだろうが・・」
たぶん、交通事故でもらった慰謝料や補償金のことも含めて言われているような気がしていた。
「それって、交通事故のですよね?」
「そう、使ってないんだろ?そっち・・」
「そっちは、そのまま残ってます」
「そうか、そういうとこはお前は偉いな・・直美ちゃんのアメリカ留学用にとってあるんだろ?来年いくのか?どうなんだ?それとも卒業してからなのか?」
叔父には、昔すこし聞かれてしゃべっていた事だった。
「時期はまだ、どうなんだか、わかんないけど・・・そのために一生懸命バイトしてるみたいだし・・」
「そうか・・じゃぁー そっちは残ってるんだな?で、他にも貯金あるんだろうが?違うか?」
「うん、あるんだけど、使いたいものがあって・・」
少し言葉をにごしていた。
「なにをだ・・言いたくないなら無理にとは思わないが・・」
「うーん」
少し悩んでいた。直美が叔母に譲ってもらっていたネックレスを返して、その代わりのものを俺が直美にプレゼントしたいからって言うのは、なんとなく叔父には言いずらかった。
「じゃあ、貸そう。いくらいるんだ?」
背広の中に手をいれながらだった。
「あのう、それはちょっと・・・前借ってのがいいんですけど・・」
「めんどうだなぁー 明日振り込ませるわ、いくらだ?金額?全額か?」
おそるおそる、俺は指を5本ほど立てていた。
「それでいいのか、遠慮してないか・・・」
「あっ、それでたりるから・・」
自分で恥ずかしい顔なのがわかっていた。
恥ずかしい事は充分にわかっていた。
「さぁ じゃあそっちの話はそれで終わりか?」
「はぃ」
「じゃぁー 移動しよう、俺のほうは少し話しあるから・・」
叔父は言いながらもう出口に向かっていた。
お金のことではほっとしていたけど、これから話にはちょっと、いやな感じだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生