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夏風吹いて秋風の晴れ

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9月の始まり


直美と奥伊豆への1泊旅行が終って、普通の生活に戻ると、もう9月になっていた。
あれから、叔母からも叔父からも連絡らしいものはなく、弓子ちゃんの学校って始まったんだなぁーって思いながらアルバイト先の不動産会社の自分の机の椅子に座っていた。
店長はお昼過ぎから本社に呼ばれていたし、忙しかったのは4時ごろまでで、夕方からはのんびりとした時間が過ぎていた。
「主任、社長のところってお嬢さんはもう来たんですよね」
同じくのんびりと机に向かっていた鈴木さんがこっちを向いてだった。
会社の中には俺と鈴木さんだけだった。
「うん。そうだけど・・本社のほうではさぁー 正式にっていうか、もう、オープンな話になったのかなぁ・・どうなの、ほら本社の社長室の秘書に知り合いいるとか言ってたでしょ?」
「そうですけど・・一応はオープンな話にはなったらしいですけど・・」
「まぁー 社員全員にきちんと場所とかつくって話すって話でもないだろ・・自然になんじゃないか・・」
「そうですよねー そうすると、社長がここに現れたら普通に知ってるって事で話してもいいんですかねー?」
「いいんじゃないの、細かい事気にしないでも・・そういう性格でもないし・・社長って・・」
「そうですか・・」
「まぁー どうせ あんまりここには来ないから」
よっぽどの事が無ければ、叔父の社長は子会社のここには顔を出す事はなかった。
「主任、あの子って知り合いですか・・・外からこっちのぞいてる子・・」
言われてみた先には、弓子ちゃんがいて、目が会うと、ちょこんって頭を下げていた。制服姿だった。
入っていいよって、口を弓子ちゃんに向けてわかるように動かして、左手の指で会社の入り口のドアを指さすと、もう1度頭を下げて、にこって笑っていた。
「あ、社長の・・」
こっちを向いて、誰?って顔の鈴木さんに小声でだった。
「えっ」
鈴木さんは、ビックリ声を出していた。

「おじゃまします。こんにちわ・・・」
弓子ちゃんが頭を下げていた。
あわてて、鈴木さんは、「こんにちわ」って返していた。
「あっ、学校ってここだもんな・・今、終ったところか・・」
弓子ちゃんの通いだした新しい学校はここから駅を挟んだ向こう側だった。
「授業はとっくに終ったんですけど、バスケットボール部の練習を見させてもらってたから」
「そっか、あ、こっちに座りなよ」
狭いところだったけど、奥の場所に案内していた。鈴木さんがすぐに 冷たい麦茶を出してくれていた。
「はぃ、すいません」
私立の女子校らしいマークのついたカバンを横に置いて、おいしそうに麦茶に口をつけながらだった。
「部活入るの?バスケット?」
「うーん、どうしようかなぁーって・・思ってはいたけど私立だから練習って厳しそうだったし・・毎日らしいです。練習って・・」
「毎日でしょ、部活って・・前の学校は違ったの?」
「公立だから、毎日じゃなかったんですよね」
「そっかぁー でも入ってみれば・・好きなんでしょ?バスケット・・」
「うん」
「まぁー ゆっくり考えればいいじゃん、まだ、学校新しくなったばっかりだしな・・」
たぶん、登校を始めてまだ、2日目とか、そんなものだろうって思っていた。
「はぃ。ここも、叔父さんの会社なんですか・・・」
建物の中を見渡しながらだったし、叔父さんって言い方だった。
「そう、本社はもっとでっかいぞ・・ここは子会社だからな・・今度一緒に行ってみれば・・」
「うーん、でも忙しそうだし・・帰りって、毎日9時にしか帰ってこないみたいだし・・」
「えっ」
ちょっと驚いた声をだしていた。
「9時には毎日帰ってくるの?」
「それくらいの時間みたいですね、毎晩」
返事を聞いて、もっと驚いていた。
「それってさぁー 弓子ちゃんさぁー 帰り早いほうだと思うよ・・弓子ちゃん来る前って、たぶん11時ごろにしか戻って来てなかったと思うけど・・早くて9時じゃないかな・・」
言いながら、叔父さんも一生懸命家に帰ってるんだなぁーって思っていた。
「えっ、そうなんですか」
弓子ちゃんが、驚いた声をだして、聞き返してきていた。
「うん。たぶんね」
「知りませんでした・・・」
「いいんじゃない、早いほうが・・・もともと今までが遅すぎなんだから・・」
たぶん、叔父さんは夜の食事の接待仕事をなるべく早めに終えているのか、酒の席を断っているかのどちらかのはずだった。
「そうですかぁー・・」
「で、どう?慣れた?」
うまい言い方ってわけではなかったけど、変に気を使って聞くよりいいかって思っていた。
「はぃ、ちょっと静かで困っちゃいますけど・・ずーっと人がいっぱいだったから・・今まで・・」
家の中で、2人っきりって初めてなんだろうなぁーって思っていた。叔父が帰ってきても3人だった。
「そうだなぁー 静か過ぎるか・・」
「はぃ、前はうるさ過ぎましたけど・・」
笑顔で笑いながらだった。
「遅くなるって言ってあるの?家に?」
叔母さんに?って言いそうになったのを、飲み込んで家って言い方だった。
「はぃ、部活見学して来ますって、言ってきましたから」
「そうか・・じゃぁー まだ、大丈夫かな・・でも、電話いれとくわ」
時計は6時を過ぎていた。でも、そろそろ、叔母さんは心配していそうな気がして、電話をかけていた。
電話にでた、叔母に弓子ちゃんが店に寄ってますって伝えると、よかったって声で、ほっとしているようだった。
弓子ちゃんは、特になにかを、言いたそうって雰囲気ではなかったけれど、何も無くてこんなところに来るわけもなかったから、時間があれば食事でもするかって思っていた。
直美がいてくれたほうが、弓子ちゃんはいいのかなぁーってのと、俺はそっちが助かるかなぁーだった。
下北沢に夕暮れがやってきていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生