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夏風吹いて秋風の晴れ

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下北沢を制服と


10分ほど弓子ちゃんと、通いだした女子だけの学校のを話していると、背広を片手に暑そうな顔をした店長が会社に戻ってきていた。
「おかえりなさい、ご苦労様です」
俺が言って、鈴木さんも同じ台詞を続けてだった。
「あっ、おじゃましています」
弓子ちゃんはあわてて、席を立って店長に頭を下げていた。
「はぃ、いらっしゃい」
店長は、俺の知り合いの子なんだろうって感じで挨拶を返していた。まぁ、あたらずも遠からずだった。
「えっと、なにかありますか?」
店長が自分で冷蔵庫から麦茶をだしてコップに移しながら、俺に聞いてきていた。
「特段にはないです。午後から暇になっちゃいましたから・・」
「そうか。えっと柏倉君、もう上がってもいいよ、あとは俺と鈴木さんでやるから・・お知りあいなんでしょ?」
制服を着ている女の子のことを気にしながらの店長だった。
「あっ、えぇー じゃあー 上がらせてもらっていいですか?」
「いいよぉー あっ、明日休ませてもらうから柏倉君よろしくね・・」
「はぃ、大丈夫です。じゃぁー 失礼します。弓子ちゃん帰ろうか?」
椅子から立ち上がりながらだった。
「あっ、本社で少し聞いたんだけど、柏倉くん・・・社長の家って先週末に養女が来たって・・本当なの?なんで教えてくれないのよ、恥じかきそうだったぞ・・」
「えっ、えぇ。そうですね、すいません・・えっと、その・・従姉妹です」
なんて言っていいか困ったけど、弓子ちゃんを紹介していた。
「あっ・・・・」
一声だして、店長は固まったって感じだった。
「すいません、弓子です」
弓子ちゃんは、恥ずかしそうに、頭を下げていた。
「あつ、えっ ああ すいません。知らなかったから・・・早く言ってくれよぉー なんだよぉー」
店長はばつの悪そうな顔で少しだけ俺に怒りながらだった。
「すいません、言おうと思った先に店長が・・・」
早めに言えば良かったかって、ほんの少し反省しながらだった。
「そうですかぁー よろしくお願いしますね。いま、柏倉君も仕事あがりますからね・・」
なんだか妙に丁寧で、こっちは少し笑いそうだったけど、ずっとだまって様子を聞いていた鈴木さんはもっと笑いそうな顔を浮かべてこっちを見ていた。
「あっ、赤堤に電話するから、スパゲッティーでも食べて帰るか?送っていくから・・」
「あっ、はい」
弓子ちゃんの返事を聞いて、電話をかけて叔母に了解を取っていた。なんだか、あっさりとOKをもらっていた。
一緒に家に戻っていた直美にも電話を入れて、行き先の店の名前を言うと30分ほどで来れそうだった。
電話を終えて、店長に頭を下げて外に向かおうとすると、俺よりも弓子ちゃんに店長は丁寧に頭を下げていた。おかしかったけど、まっ、そんなもんかって感じだった。
弓子ちゃんは、それに、苦笑いっていうか、困っちゃったって顔を浮かべているようだった。

「ふぅー 店長さん、びっくりしたんですかね・・・」
「本人前に言っちゃったからでしょ?それで あせったんでしょ・・」
「うーん」
「ま、いいでしょ・・」
下北沢の商店街を、制服姿の女のこと歩きながらだった。
「制服でこんな時間にうろうろして怒られないかな?」
「えっ、あっ 校則って読んでないかも・・・でも、どうなんですかね・・柏倉さん?」
「まぁー いいだろ・・」
根拠は全然なかったけど、血はつながってはいないけど、親戚なんだし、問題ないんだろうなぁーってだった。さっきは、従姉妹ってあわてて言ったけど、まちがいなくそれは、それだった。
「直美も30分ぐらいで来るから・・今頃自転車で豪徳寺まで飛ばしてるかな・・」
「早そうですよね、直美さん・・」
「すんげー 早いぞぉー」
「今度競争しようかなぁー わたしも早いですよ」
「そんなこと言ったら、夢中であいつは自転車こぐぞ」
笑って説明をしていた。
なんか、よく考えたら、弓子ちゃんって、ものおじせずに話す子なんだなぁって思えていた。俺が中学生の弓子ちゃんの歳には、こんなにきちんと話なんか出来なかったはずだった。弓子ちゃんは、たくさんの血のつながっていない大人と、多くの血のつながっていない妹だったり、姉だったり、おにーさんや弟に囲まれて育ったからなのかぁーって、考えながらだった。でも、想像に過ぎないことなのかもしれなかった。
「もうすぐだから・・店」
「はぃ、お腹すいちゃいました」
「そっか、食べそうだもんな」
弓子ちゃんは、太っては全然いなかったけど、もりもり食べそうなそんな雰囲気だった。やっぱり、少し制服姿だったけど、ボーイッシュな子だった。
「食べますよぉー だって遠慮してるとおかずなくなっちゃう暮らしでしたから・・」
明るい子だった。
自分の今までの生活を隠さないそんな、いい子だった。
「あのうー 聞いていいですか?」
「なに・・」
「なんて呼んだらいいですか?」
「俺?」
「はぃ」
「柏倉さん?でいいのか・・劉さん?なんでもいいけど・・」
「劉さんって呼んだら直美さん怒ります?」
「へっ?」
「だって・・」
「うーん、劉って呼び捨てにしなきゃいいんじゃないか・・」
「そうですか、じゃぁー 劉さんで・・」
「あっ、でも、気になるようならあとで直美に聞いてみれば?」
「はい」
元気な返事だったけど、恥らった顔は、中学生なのに、きちんと女の子だった。

角を曲がると大きなイタリア国旗が、こっちですよって揺れていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生