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夏風吹いて秋風の晴れ

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赤い顔で


「私の顔って少し赤い?ちょっと、この辺なんだけど・・」
1時間もしないで草取りが完了して、抜いた草を教会の裏手のゴミ捨て場に運びながらの直美に言われていた。
「ちょっとね。でも、大丈夫でしょ、鼻のさきっぽも少しね・・」
直美が自分で指を差した、ほっぺもだったけど、鼻もほんのり赤くなっていた。
「そっか、まーいいよね。あとで冷やしておこうっと・・」
「俺も顔って赤いんでしょ?」
「そうでもないよ、海によく行ってた頃から比べれば、顔は白くなったから、ちょっと赤いだけ・・もう8月も終っちゃうのにけっこう陽射し強かったね」
「そうだなぁー もうすぐ9月だなぁー」
言いながらもけっこう体は汗だくで、早く帰ってシャワーでも浴びたら気持ちいいだろうなぁーって思っていた。きっと直美もそのはずだろうって一緒に思っていた。
「さっ、終了」
手にしていた草を捨てて直美がにっこりだった。
「帰るかぁー」
「うん。でも、まだ叔母さんたちって帰ってこないねぇー どこまで行っちゃったんだろうね?」
「ステファンさんだから、どっかの家で上がりこんで長話かもだなぁー 玄関は閉まってるけど、廊下はきっと開いてるはずだから、荷物とって、手紙書いて置いていけばいいよ」
「そうだね、会うと引き止められちゃうからいいね。うーん、お腹空いたぁー やっぱり、外で体を動かすのって気持ちいいねぇー バイトとは全然違っていいね」
体を背伸びして、気持ちよさそうに直美が口にしていた。
「でも、ちょっと腰が痛いな、草とりって・・」
俺は、腰を後ろに倒しながら直美にだった。
「へー あんなに高校生の時は運動してたのにねぇー」
「それは、言わないように」
詩音の墓を横目に見ながら、隣の叔母の家につながっている木戸に向かって二人で互いの少し赤くなっていた顔を見合いながら、笑いながらだった。

叔母の家にあがって、置手紙を直美が書いてから、荷物を少しと、大場から預かった夏樹からのお土産を手に、上がりこんだ廊下から外に出ていた。
「お墓参りは?」
教会の庭にでると直美がこっちにだった。
「そうだな、じゃぁー ちょっと・・・」
言いながら直美と白い石で出来ていた十字架の前に近付くと、いつものように小さな花が添えられていた。この暑さだったから、少し、しおれてはいたけれど、かわいい花だった。
「叔母さんって、毎日すごいね・・お庭の花ってこのためなのかって思っちゃうぐらい、ほとんど、1年中咲いてるしね」
「そうだなぁー 季節ごとにきちんと叔母さんの家の庭って何か咲いてるなぁー」
たしかに、叔母の家の庭は綺麗に、いつも何かしら花が咲いていた。
「でしょー すごいよね・・」
「うん」
返事をして、たいしたクリスチャンでもないのに、子供の頃に教えられたとおりに十字をきっていた。
直美もあわてて、隣で十字をきっていた。
「さっ、帰ろっか、直美」
「うん。劉、なにを今日は言ったの?」
「えっと、今日からは、母親も父親も、それから妹も見守っていけって・・」
「ほぉー そうか、うん、そうだね」
直美が、ゆっくりうなずきながらだった。

自転車にはかごが付いていなかったから、夏樹からの沖縄土産を背中のバックに詰め込んで、ペダルを踏み込んでいた。
「ねぇー ねぇー ちょっとぉー 劉ぅー」
後ろについていた直美の自転車がスピードを上げて隣に並びながらだった。
「なに?あぶねーから・・」
「あのさぁー お財布にお金もってるぅー?」
「あんまりないけど・・たぶん、¥3,000ぐらいなら入ってるけど・・」
たぶんそれぐらいしか入っていないはずだった。
「疲れちゃったから、夕飯どっかで食べてこうって言ったら、怒っちゃうー?」
「あぁー いいよぉー 」
言いながら、自転車が横に二台で、けっこうなスピードは危なそうだったから、速度を緩めていた。
「よかったぁー あっ、ね、ちょっと止まって」
言われて、ブレーキを握って、自転車を一緒に止めていた。
「どうするの?」
「だって、そう決まったらお店決めなきゃでしょ?」
そのとおりだった。
「どこに行く?」
「えっとね、引越して来た最初の晩に食べたハンバーグがいいなぁー サラダとっても、平気でしょ? お金って足りるよね?わたし、お財布置いてきちゃったから・・」
「大丈夫だろ、じゃぁー こっちの道じゃだめじゃん」
「だから、止めたんだってば・・少し戻らなきゃ・・」
「そっか、じゃぁー 戻ろう」
「うん」
赤い直美の自転車がくるっと回って、それに俺が続いていた。
「あのさぁー ゆっくり行こうってばぁー」
直美の自転車があっとういうまにスピードを上げていた。
「だってぇー お腹空いちゃったんだってばぁー」
後ろを振り返って、直美が答えていた。
「わかった、わかった、前向いてぇー」
あぶなくって、これ以上は直美に話しかけずに、黙っていこうって思いながらだった。
直美の真っ赤な自転車は世田谷の街をさっそうと走っていた。
俺の自転車はそれを、追いかけて、あたふたって感じだったかもだった

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生