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夏風吹いて秋風の晴れ

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おやつを終えて


直美の舌はちょっと緑で。俺の舌はだいぶ真っ赤で、笑いながら見せ合って、教会まで歩いて戻っていた。
教会の門の角を曲がると、見慣れたワゴン車が停まっていて、そこの横には、大場が立っていた。すぐにこっちに気づいた大場が、
「どこいってんだよぉー お隣さんも誰もいねーし・・どうなってんだぁー」
真っ黒な顔から、真っ白な歯を見せながら、大きな声でこっちに文句をだった。
「大場君、久しぶりぃー 夏樹のところに行ってたんでしょー 元気だったぁー?夏樹?」
直美が大場にだった。
「いや、そういうことじゃなくてさぁー どこにいってたんだよ、直美ちゃんも柏倉も・・俺さぁー 20分もここで、ぼけーっとしてたんだけど・・」
直美に大場が言い返していた。
「3時だから、かき氷食ってた・・」
大場が、俺の顔も少しにらんでみていたから、返事を返していた。
「あぁー いいなぁー 食いたかったなぁー 俺も・・」
「もう少し早く来るって言ってたのに、遅いからだよ、なにやってたんだよ、引越しなんかとっくに終っちゃったぞ」
「それがさー 親父が具合悪くなっちゃってさぁー 朝から病院に連れてってたのよ」
「えっ、大丈夫か?」
ビックリして聞き返していた。
「血圧高いからさぁー めまいおこしたみたいだわ・・ちょっと、医者も検査しましょって言うから、検査入院させることになった」
「そうか、平気なのか?」
「うん、まぁー 大丈夫だと思うんだけどさぁー だから、少しだけここによって、えっと、なんだっけ、名前? 中学生の顔でも見て挨拶でもしようかなぁーって思ってきたのに、だーれも、いねーんだもん」
「弓子ちゃん達はさぁー ステファン神父が、近所周りしないといけませんわぁーとか言って、叔父さんと叔母さんも、ステファンさんに引き連られて、町内1周に行ってるんだよ。それがさー 帰ってこないんだよねー まだ、いなそうだなぁー」
大場に説明をしながら、隣の家の様子をうかがったけど、まだ、4人は戻ってきてはいないようだった。
「おもしれぇー あの、おっちゃんらしいなぁー でも、いいじゃんな、いっぺんにすんじゃって・・あの子ってどこの子って見られるより、その、弓子ちゃんだっけ・・その子にとっても、そりゃいいわ・・・でも、あの、おっちゃんと一緒じゃ、なかなか帰ってこねーだろうなぁー 話なげーもんなぁー うまそうなお菓子とかだせれたら、絶対食べちゃうだろうしなぁー」
うれしそうに、大場が笑いながらだった。
「じゃぁー 今日は、まっすぐ帰るわ、病院にもどるから・・えっと、直美ちゃんさぁー 夏樹から、これ渡すように言われたから・・お菓子ばっかりだけどな・・ジュースもあるかな」
大場が車のドアをあけて、大きな袋を直美に差し出していた。
「うん、ありがとう、元気だったの?夏樹?変わってなかった?」
「うーん、変わってないけど、なんか、いっそう顔が真っ黒だった」
いい終わって、夏樹の顔を思い出したたのか大場が笑っていた。
「真っ黒かぁー 元気そうだなぁー」
「相変わらず、酒いっぱい飲んでたから、元気だよ、うん。直美ちゃんにもよろしくって言ってた」
「うん、あとで帰ったら電話する」
「うん、じゃぁー このまま帰るから、宴会なんだろ、夜は?いいなぁー」
大場が、車に体を入れながら俺にだった。
「いや、俺ら、帰ろうって思ってるんだ。あんまり他人がいてもな・・それに弓子ちゃんも疲れちゃうだろ・・」
「そっか・・でも、柏倉とかが帰ってもステファンさんとか、宴会しそうだけどなぁー」
「ま、それは、それでいいだろ・・お隣さんだしな。聖子叔母さんにとっては、親の1人みたいなもんだしな・・」
聖子叔母さんが生まれた時には、ステファンさんはもうこの教会の神父さんだったし、聖子おばさんにとっては、もう1人のお父さんみたいなもののはずだった。特に、聖子叔母さんの両親がどちらも他界してからは尚更なのかもしれなかった。
「なるほどな、じゃぁー 今日は本当に帰るわ」
「あぁー わざわざ悪かったな・・父ちゃん面倒みろよ、ちゃんとな・・」
「ほう、なかなかいいますねー ま、でも、元気だから大丈夫だ。酒の飲みすぎだから・・」
わざと明るく振舞って笑いながらだった。
「ちゃんと、面倒みなさいぉー おかーさん1人で、看病とかするのって大変なんだからね」
直美が、大場にはっきりとした口調だった。
「わかってるって・・じゃぁー あの、おっちゃんとかにもよろしく言っておいてくれや」
「うん」
直美と一緒に返事をすると、大場のワゴン車は、ゆっくりと前に進んで、教会を出る時に軽くクラクションを鳴らしながら、見えなくなっていた。
「おとーさん、大丈夫なのかなぁー」
直美が手に大場からもらった沖縄土産をもって、心配そうな顔で聞いてきていた。
「うーん、あの性格だからなぁー あとで、きちんと聞かないとだな・・病状重くても、言いそうもないからな・・」
「そうだよね・・ちゃんと、あとで、聞いてみてね?劉・・」
「うん」
「さっ、じゃぁーあと少しですから、頑張りますか?」
直美がタオルをきちんと首に巻き直しながらだった。あと、1時間もすれば、きっと最初に決めた目標の場所の草は綺麗になくなりそうだった。
「よーし、がんばりますか」
「これって、どこにおいておこうか?」
手に提げたお土産の袋のことだった。
「うーん、あそこの影にでも置こうか?」
聖堂の入り口の横の影になっている場所を指差しながら直美にだった。
「あっ、林さんだ・・」
ちょうど林さんが、聖堂の大きな扉の前に出てきていた。
「こっちで預かりますよー 柏倉さーん」
林さんが俺たちにだった。大きな声だったけど、いつも通りの冷静な声だった。
「あのさ、劉、林さんって、耳すごーくいいわけ・・」
直美が声をちいさく、それも下を見ながら俺に聞いてきていた。
「たぶん、そうだと思う・・っていうか、あの人って、昔から思ってたんだけど、すごくいいタイミングで、すーっと出てくるんだよね・・耳がいいっていうより、違うほうの霊感っていうか・・なんていうか・・」
俺も地面を見つめて小声でだった。
「だよねー 私も前から少し思ってた」
直美も地面を見つめながらだった。

「さっ、お預かりしますよ」
ビックリして二人で顔を上げると、林さんが目の前に立っていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生