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夏風吹いて秋風の晴れ

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草をひっぱりながら


教会の庭は芝生が多くて綺麗で、一瞬、草なんか生えてなさそうだったけど、よく近付いてみると、それなりにあっちこっちに草が生えていた。
自転車で来たから、直美も俺も帽子は持っていたけど、日に焼けそうだったから、首には叔母から借りた白いタオルをおそろいで巻きつけながらだった。
「全部は無理だね・・さすがに、広いから・・」
直美が額に少し汗をにじませまがらだった。
「ここから、あそこの大きな木まで綺麗になればいいでしょ・・それでも、けっこうな広さだけど」
「うん。そうだね、よーし、頑張ろうっと」
それから、直美も俺も、理由もなく一生懸命に草を引き抜いていた。小さい時の草むしりも、けっこう大変だった記憶だったけど、この歳になっても、それはあまり変わらない感覚だった。どっちかというと曲げた腰とか、足は今のほうがきついようだった。
「劉さぁー 抜いた草は、ここって言ったでしょ。あとでまとめるの大変でしょ」
直美が、抜いた草をきちんとまとめた場所を指差していた。
「ちかくには、置いてるつもりなんだけど・・」
確かに直美が置くよりは、散らかって置いていたようだった。
「もうちょっと、きちんとって意味よ」
「わかった・・ここね」
言いながら、周りに散らかっていた草をきちんと1箇所にまとめながらだった。
「そうそう。 今度は、ここね・・」
草を抜きながら場所を少しずつ大きな木に向かって移動していたから、抜いた草を置くらしい新しい場所指差しながらの直美だった。
「はいよー ここね」
「うん、あのさぁー 弓子ちゃん達って、どれくらいかかっるのかなぁー時間・・」
「そうだなぁー 町内って何軒あるんだろう・・・でも、田舎ほど家が離れて建ってるわけじゃないし・・長話しても、2時間もあればかえって来るでしょ」
「そうかなぁー ステファンさん人気者だからなぁー・・捕まっちゃうかもよ、あっちこっちで・・」
たしかにそうかもって思っていた。
「ま、それはそれで、弓子ちゃんは大変かもしれないけど、いいかもよ。3時のお茶とかも、どっかでしてから帰ってきそうだな・・」
「じゃぁー 私たちは、3時になったら、アイスクリーム買いにいこうね・・コンビにあったよね・・」
「あっ、アイスってそういうことか・・コンビニか・・そっか・・」」
「えっ?カキ氷がいいんだっけ?劉は?丸いカップであるよね、カキ氷も・・」
顔を上げた直美の顔はほんのり赤くなっているようだった。日焼けしそうな雰囲気だった。
「教会の裏の方に歩くと、たぶん小さな店だけど、ところてん、とかカキ氷の食べさせてくれるお店あると思うんだよね。そこいこうよ・・アイスクリームあるかなぁー でも、カキ氷の上にバニラをのせたのってあるかもしれない」
「へぇー そんなところあるんだ・・」
直美の声を聞きながら、たぶん、あの店ってきっとあるって、勝手に思っていた。10年前には、よく小銭を握り締めて、詩音と走っていった店だった。走る理由なんてまったくなかったんだけど、いつも勢いよく走っていって、「おばちゃーん」って詩音が大きな声を出しながら駆け込む店だった。
「たぶん、まだ、あると思うよ」
「そっか、じゃぁ、そこまで行ってみよう」
抜いた草をきちんと、自分で決めた場所に放り投げ投げた直美に笑顔で答えられていた。

3時になってもステファンさんご一行が隣の家には戻ってきた気配はないようだった。
「よし、休憩」って声をだして、立ち上がりながら草を抜いた場所を直美と一緒に眺めていた。最初に決めた場所の範囲の半分以上が終っていて、残りは3分の1程度だった。
俺も直美も、しっかり汗をかいていた。
「ふっー けっこう頑張ったね」
直美が顔の汗を拭きながらだった。
「うん、手を洗っていこうか・・」
言いながら、聖堂にくっついている、後ろっていうか、横の建物に直美と向かっていた。腕のあたりも汗だらけだったし、顔もあらいたかったし、もちろん土まみれの手もだった。
勝手にドアを開けると、さっきいた林さんはいなくて、静かな空気が流れていた。よく遊びにきていたから忘れそうだったけど、やっぱり教会って雰囲気だった。
部屋に入って直美と勝手に蛇口をひねって水を出して、汚れた手や、汗だらけの顔をきれいにしていた。ほてった体には、水道の水でも冷たくて気持ちよかった。
「化粧落ちちゃった・・」
顔を洗って気持ちよさそうな直美の素顔だった・
「別にいいでしょ、かわいいよ。それも」
「かわいいか・・そっか・・」
笑顔のスッピンだった。
「畑にしてもいいよって、ステファンさんが言うところってどこなんだろ・・劉、わかる?」
「うーん、お墓のほうの裏手のどっかだと思うけど、あのひと、そういうの、適当だからなぁー 」
ステファンさんの顔を思い出しながら直美に答えていた。
「このへんの、どこでもよろしぃがな、直美はん! って言いそうだね」
身振りをいれて笑いながら、上手にステファンさんの真似をしながらだった。けっこうそれは、似ていて、お腹をだすしぐさが、お笑いだった。
「すんげー 似てるわ、それさぁー ステファンさんの前でやれよ、おもしろいから・・」
「えぇー 怒られないかなぁー」
「うーん、どうだろ、そういうのに限って怒るかも・・」
「うわぁ、やだ。こんな感じかなぁー  「 直美はん、ぜんぜんにてまへんでぇー わて、そないと違いまっせぇー 怒りまっせぇー 」 かなぁー」
調子に乗った直美が、もっとお腹を前にだしながらだった。
思わず、こっちは大笑いで、直美も一緒に大笑いだった。

「あのー すごく似てらっしゃいますよ」
部屋の奥から、林さんが冷静な声で静かにこっちに向かってだった。
思わず二人で、顔を見合わせて、苦笑いだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生