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夏風吹いて秋風の晴れ

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大、中、小


「どうしようか?お風呂はいっちゃおうか?」
時計を見ながら、直美に聞いていた。
時間は10時前だったけれど、中学生の時には自分がいつも何時に寝ていたかなんて、はっきりとは思い出せなかった。でも、なにも無ければ11時には寝ていたはずだった。
もちろん、たまには、布団の中で深夜ラジオなんかを聴いて大人のふりをしていたこともあったけど、それは毎晩ではなかったし、試験のときだけは、不安で明け方まで起きてた記憶だけだった。
「そうだね」
直美がうなづいたのを確認して、風呂場に向かってお湯を入れに歩いていた。
順番ってどうしようって考えながら蛇口の栓をひねっていた。やっぱり、弓子ちゃん、直美、俺ってのが普通だろうなってだった。
部屋に戻ると、直美が、
「全員で、ここで寝ようか」
って、俺にだった。
2人の時はいつもは、隣の部屋のベッドで、くっついて寝ていたけど、今夜はそうもいかないし、布団をここに全員分ならべようかって意味だった。おかしなことだったけど、実家の田舎のお袋は布団を送ってくるのが好きで、俺のこのマンションの家には3人分の組布団が置いてあった。お袋は自分で送った枚数まで知っているはずなくせに、季節の変わり目になると電話で「タオルケット送ろうか、とか、 毛布送ろうか 」ってのが口癖だった。
「そうだね、じゃぁー 用意しちゃうから、手伝ってよ」
ソファーとテーブルとをどけないと、とっても布団を引くスペースは無かった。
「こっち持つね」
直美が片方を掴んで、2人で、ソファーを壁側に移動だった。弓子ちゃんは、それを見て、テーブルを1人で、一生懸命に壁側に動かしていた。
「劉、これで、狭いけどなんとか寝れそうだよね。弓子ちゃん我慢してね。狭いけど、一緒が楽しいでしょ?」
「はぃ、わたし1人で寝たことなんて記憶ないから・・」
なんだか、普通に言われていた。
「弓子ちゃんの部屋って何人で寝てるの?」
直美が聞いていた。
「ほんとうは、大きな子は2人なんですけど、結局4人とか5人かな。寝ようかなぁーって思って布団に入ると、先に小さい子がもう、寝てたりするし、たまに、夜中に布団にもぐりこんでくる子もいるから」
「そうなんだぁー」
直美の返事に、俺も、そうなんだぁー って思っていた。
叔母から聞いた話だったから、少しあやふやだったけど、弓子ちゃんが施設では1番の年上だって聞いたから仕方ないのかもしれなかった。想像だけだったけど、小さい子にとって、大家族の長女なんだろって思えていた。
「でも、冬は暖かくっていいですよ。夏は、さすがにちょっとって感じですけど・・」
少し笑顔を見せながらの弓子ちゃんだった。
「そうかぁー 冬はよさそうだね」
寒がりの直美が答えていた。直美は夏の夜の冷房も好きではなくて、よく、知らない間にスイッチを切られていた。
「でも、たまに、おねしょ付ですよ」
「えっ、それは・・ちょっと・・」
直美が真剣にダメって顔だった。
俺もなんだか、その状況を想像しながら、そりゃ、イヤだぁって思いながら、風呂場にお湯の量を見に向かっていた。覗くとちょうどのところだった。
「もう、入れるよぉー 」
部屋に戻って、直美にだった。
「じゃぁー 弓子ちゃんからどうぞ・・これ、着替えね、使ってね」
「はぃ。直美さん、いいんですか、先で・・・」
「うん、入っちゃってよ、劉はいつも、最後だから、気にしないでいいよ。弓子ちゃん、わたし、それに劉って順番で・・」
「わかりました、そうします、すいません」
返事をすると、着替えを抱えて弓子ちゃんは、風呂場に向かっていた。
それを、見送って、
「やっぱり、いい子だね」
って、少し小さな声で直美が俺にだった。
それに「うん」って返事をして立ち上がって、今のうちに、布団を運ぶ事にした。たぶん敷布団は、この部屋には3枚はギリギリっていうか、重なるようになるはずだった。
俺が、隣の部屋のクローゼットから運んで、直美がそれを綺麗に並べていた。
ちょっと、大変で、窮屈そうだったけど、なんとか、布団が並んでいた。ちょっと、一仕事だった。
「わたしは、ここね、で、こっちが弓子ちゃんで、劉は、そこ」
枕を布団の上に置きながら直美がうれしそうだった。言い終わると、自分の枕を抱えながら布団の真ん中に寝転んで、手を下から伸ばして、俺の手をつかんでいた。
上からキスをするとうれしそうだった。
「よかった。キスできて・・」
「バカじゃないの・・」
少し呆れて言ったけど、内心は違っていた。
「はぃ、じゃぁー バカからも・・」
言い終えて、キスを返されていた。
お風呂場からは少しだけ、音が聞こえていた。
知らない間に直美に助けられる事があったけど、今夜もその夜だった。
直美を好きになって6年目の夏がもうすぐ終わりそうだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生