夏風吹いて秋風の晴れ
中学生に・・
弓子ちゃんが、風呂からあがると直美がドライヤーを差し出して、髪を乾かすように勧めると、
「やったことないや、あんまり・・タオルで乾かして終わりなんですけど・・」
って弓子ちゃんが答えていた。それに直美が
「やらないと、明日の朝、すごい事になったりしない?」
って聞いていた。それを聞きながら、自分では中学生の時も坊主だったし、高校生の時もそうだったなぁーって俺は思っていた。だから、風呂上りにきちんと髪の毛を乾かすのって、今でもなんとなく俺にとっては面倒な事だっし、直美と長い時間一緒にいるようになってから、なんだか、女の子って一生懸命乾かすんだなぁーって発見した事だった。
「はぃ、いつもすごいです」
わらって弓子ちゃんが返事をしていた。
「なら、きちんと乾かしなさいね、劉に明日の朝に笑われるわよ」
「はぃ、じゃぁ お借りします。ここでいいですか」
弓子ちゃんがコンセントを指差して聞いていた。
「そ、そこでいいよ、じゃぁー わたし、入っちゃうね」
言いながら直美はお風呂場に向かっていた。
すぐに、ドライヤーの音が響いていた。俺にはさすがに背中を向けて、少し恥ずかしそうにだった。
だまっているのは、なんとなくイヤだったけど、ドライヤーの音できっと、弓子ちゃんに話しかけても聞こえづらいだろうなって考えていた。
でも、このままだと、こっちが意識してるみたいだったから、結局は、たわいも無い事を話しかけていた。
「弓子ちゃんって、さぁ、好きな子とかいるの?」
言いながら、もうちょっとましな事を聞けばよかったって思っていた。
「えっ なんですかぁー」
大きな声で返事をされていた。
「好きな子とかいるのぉー?」
こっちも大きな声で繰り返していた。
「なんですかぁー いきなり・・・」
少しだけ振り返ってだった。
「いや、いるのかなぁー って・・・」
「いますよ、そりゃぁ」
「そっかぁ・・」
バカな質問だったけど、話がきちんと進みそうで、ほっとしていた。
「直美さんでしたか? 中学生の時に好きだった人って・・・」
「俺?」
大きな声で聞き返されて、俺はちょっとあわてていた。中学生相手にだった。
「そうですよぉー どうなんですかぁー?」
「中学は別だから、知らないんだよね、その頃・・初めて見たのは高校生になってからだから・・高校は一緒なんだよ」
「へぇー そうなんですかぁー それで、好きになっちゃいましたか?」
聞いたはずなのに、こっちがいろいろ聞かれていた。
「そうね、たしかに・・そうね」
「高校生の時からなんだぁー 長いですね・・」
「そうね、どうなんだろうね・・長いのかね・・」
「長いですよ、きっと」
「そっか」
でも、きちんと付き合ったって感じたのは、東京に出てきてからだったから、自分ではそんなに長いってあんまり思ったことはなかったことだった。
「こんなもんかな・・ここに置いていいですか?」
ドライヤーのスイッチを切って聞かれていた。
「いいよ、きっと、直美も使うから」
「はぃ」
返事をして、弓子ちゃんは飲みかけのコーラに口をつけていた。
「麦茶もあるし、コーラもまだ、冷蔵庫にあるよ」
コップが空いたのを見て話しかけていた。
「はぃ、じゃぁー 麦茶もらいますね、いただきまーす」
弓子ちゃんは、言いながら冷蔵庫を開けて、麦茶をとって、ゆすいだコップにそれをいっぱい注いでいた。
「うーん、おいしい・・」
ごくごく音がしそうなほどの飲み方だった。
「質問ついでに聞いちゃいますけど、どっちが告白したんですか?」
「はぁ?」
中学生相手に、形勢不利って感じだった。
「劉さんですか?」
「うーん、と、そこはけっこう難しい・・・向こうは俺が好きなのずーっと知ってたみたいだし・・俺はなんとなく 俺のこと好きなのかなー だったし・・」
「でも、きっかけはあったわけですよね?」
ますます 形勢不利だった。早く直美が風呂から出てこないかなぁーだった。
「うんとね、それは、直美が 「わたしのこと大好きでしょ?ずーっと好きでしょ?だから彼女になってあげるね」 って言ったような・・・」
しっかり覚えていたけど、すこし記憶があいまいなふりだった。
「わぁー なんかそれ、いいですね・・直美さんらしい・・」
うれしそうな笑顔でだった。
俺は、俺が風呂に言ってる間に、絶対また、弓子ちゃんがこの話を、直美に聞きそうでヤダなぁーって思っていた。最初に話をふった内容が悪かったって思っていた。
「ふぅー 気持ちよかったぁー」
いいタイミングというかどうかはわからなかったけど、お風呂場から直美がこっちにだった。
「よし、入っちゃおうっと・・」
ちょっと、助かったって思って俺は直美と交代で風呂場に向かっていた。
「なに、話してたの・・・」
「えっと、直美さんと劉さんの告白話です」
「えぇー」
パンツを脱いだら、直美の大きな声が聞こえていた。やっぱりって感じだった。風呂からあがっても話は、まだまだ続きそうな予感だった。
作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生