道草
学校を出て約十分。普段から利用している駅に到着した。
ホームに出て時刻表を見てみると、どうやら数分前に電車が出たばかりらしく、次の電車が来るまで数しばらく待たなければならないようだ。僕はそばのベンチに腰を降ろすことにした。
部活動をする生徒が帰るには早すぎるし、かといって何の用事も無い生徒は皆帰宅してしまっている時間。割と規模の大きい駅だが、ホームにはほとんど人がいなかった。ホームの端に生徒と見られる者が一人とその少し離れたところで談笑している若い女の二人組、そして隣のベンチに四十代位のスーツ姿の男がいるだけ。
ホームそばの踏み切りの警報が鳴り出した。
『二番ホームを快速列車が通過します。線の内側までお下がりください』
そのアナウンスの直後、隣のベンチに座っていた男が突然立ち上がった。ふらふらと肩を揺らし、前へゆっくりと足を踏み出していく。
ベンチには鞄を置いたままだ。
右からは通過電車が近づいて来る。
おかしい。
「ちょっと」
反応が無い。男は線路の方向に向かって歩き続ける。
飛び降りだ。この異変に気付いているのは僕だけのようだ。
死んでしまう。僕は立ち上がった。