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道草

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誰かが僕の頭を小突いている。目を覚まして顔を上げてみると、中年の数学教師が僕の机の前に立ちふさがっていた。
 彼は諦めたような馬鹿にするような目つきで僕を非難するように見下ろしている。しばらくすると、教師は手元の教科書に視線を戻し「放課後職員室まで来なさい」とだけ言って、教壇に戻っていった。
 わざわざ説教を受けるためだけに教師のもとに赴いて、放課後の自由な時間を削るのには気が進まなかったが、すっぽかしても翌日学校に来れば怒られるのは目に見えている。職員室へ向かった。
 数学教師に話しかけると、生徒相談室に連れて行かれた。
 自分がやったことの中で教師の気分を損ねたと思われることについて幾つか謝り、得意げな顔で語る彼なりの正論に対して適当に相槌を打ち、顔を伏せて落ち込んで反省しているような振る舞いをしていると、一時間もしない内に解放された。
 部屋の前で別れた教師の顔はとても満足そうだった。これでもう月曜の二時間目と木曜の四時間目は下手なことができなくなってしまった。無事に進級したいのなら、そうするべきだろう。
 高校に入学して一年と三カ月が経った。勉強をするのは好きではないが、将来不安定な生活を送るのも嫌なのでそれなりにやっている。言われたことを言われたとおりにやり、成績を付けられ評価され有能か無能か判断される。それから逃れられるのは一部の専門的な技能を持った人間だけ。大学を卒業して社会人になれば、特に興味の持てない仕事をやることになるのだろう。希望がない。ひたすらに憂鬱だった。
作品名:道草 作家名:くろかわ