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カナカナリンリンリン 第二部(完結)

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足が思うように動かなくなったらどうしようという不安があった。しかし、うっかり滑って尻餅をついたままずずずーつと滑り落ちた時に、いざとなればお尻をついても下に向かって降りられるということに気づいて気持ちが楽になった。少し平らなところで膝を休ませながら下を見る。靄が薄れてきている。上を見上げると、杉の木立の間から、空が見えた。半分は黒い雲だが、半分は白い雲で一部分青空が見える。私はふーっと大きく息を吐いた。天候が回復していることで自分の疲れも回復している気にもなってくる。しかしまだ道も見つかってはいない。

――そんなにパチンコが好きなの。だったらパチンコ台を抱いて寝れば!――

妻の怒った顔が浮かんだ。苦笑しながら降りる。斜面の傾斜が緩くなってきたのが、はっきりわかるようになってきた。それでもまだどこに向かっているのかも分からないし、依然として道も見つかっていない。

――母にね、妊娠したって言ったらね、最初にね(あら、やだ)というのよ――

母性の少ない母親だったらしいことも色々と聞いた。そして自分は両親の悪いところばっかり受け継いで生まれてきたのだと自嘲気味に言った。私は笑って聞いていたが、もちろんいいところも受け継いでいる筈なのだが。

――あ、だめ! そんな開け方をしちゃ、全部食べないでしょ――

道だ! 私は下方に細い道を見つけた。気がつくとあのカナカナリンリンリンはもう聞こえてこない。西日が濡れた木々の緑を新緑のように見せている。

――あのね、今度の検査の結果が良かったら退院できるって――

妻は何度入退院をくり返したことだろう。二桁だろうと思うが、もう数字は意味を持たない。

見覚えのある細い山道に足を踏み入れたとき、足の裏から喜びが湧いてくるような気がした。私は下りのほうに向かって歩き始めた。しばらくすると案内標識が見えた。気のせいか膝はしっかりと身体を支えている。

――じゃあね―― と妻の声が聞こえた気がした。