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散花妖想

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それを咎めるかのように、後ろから加苅を呼ぶ大声が聞こえた。
「……椿?」
振り返ると、こちらへ駆けてくる椿が目に入った。彼女は軽く息を弾ませながら加苅のそばに来て立ち止まる。
「どうしたんだ?」
「加苅さん、私……」
そこで一息ついて、椿は言った。
まるで、花が――名前通りの椿の花が咲いたかのような笑顔で。
「あなたに仕立ててもらえて本当に良かった。今日、三人で過ごすことが出来てとても幸せだった」
「その言い方だと今日が最後みたいじゃないか、本番は半月後だろう?」
苦笑すると、椿は照れくさそうにはにかんだ。
「えぇ、そうなんだけど……でも言いたかったの。加苅さん、ありがとう」
そう言われると加苅も照れくさくなってくる。所在なく手を動かし、早口になりながら言葉を告げる。
「僕は着物を作っただけだから。今日三人でいれたのは朝貝のおかげだしね」
反論しようとした椿に、「でも」、と加苅は続けた。
「僕も今日、三人でいれて良かった。……あの着物を、最初に三人で見ることが出来て本当に良かったと思うよ」
「えぇ」
「椿、先に言っておく。……お幸せに」
自分の言葉に卑屈なものが入っていないか心配だったが、それは杞憂だったらしい。椿は幸せだけを映した顔で頷いた。
「ありがとう加苅さん。……ごめんなさい、私そろそろ行かなきゃ」
そう言えば、椿を呼ぶ朝貝の声が聞こえるような気がする。
「……気をつけて」
「えぇ、さようなら」
最後に見送った彼女の後姿は今までで一番幸せそうで、加苅には手の届かないもののように思えた。
作品名:散花妖想 作家名:三鳥