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散花妖想

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椿が亡くなった。
花が咲いた様な笑顔を見てから半月後――つまり結婚式の日。
彼女は、結婚式に臨もうと着物に袖を通した瞬間に死んだ。
死因は心臓発作。
夫になるはずだった朝貝の腕の中で息を引き取ったらしい。
その知らせを誰から受けたのか、そしてどのようにして教えられたのか、加苅は何も覚えていない。
椿の父親から電報を受け取ったのかもしれないし、自分の母親が電話で知らせてくれたのかもしれない。もしかしたら朝貝が直接伝えてくれたのだったかもしれない。
本当に、加苅は何一つとして覚えていないのだ。
気がついた時には自宅で一人、馬鹿みたいに泣き続けていた。
まるで、泣くことしかできない滑稽な人形のようだと自分でも思った。それでも涙は止まらない。
「つばき……、つばきぃっ……!」
幼い頃から彼女のことを知っていた。
優しくて、気が利いて、器量も良くて、でも実は少しおてんばな少女。女の子特有のお節介な所がほんの少し疎ましいこともあった。年頃になってからは男女の隔たりを感じたこともある。
それでも、加苅にとっては本当に大切な人だった。
悲しい、辛い、苦しい、やるせない……。昔学校で教えられた単語はどれも、加苅の心情を表してはくれない。強いて言うなら「悔しい」が近いかもしれない。
もし、あの日が結婚式でなかったら。もし結婚相手が朝貝でなければ。もしあの着物を仕立てたのが自分でなければ。もし一つでも何かが違えば、彼女が発作を起こすことなど無かったかもしれない。そんな訳は無いことは分かっている。だが、そんな風に何かを責めでもしないと、今にも崩れそうだった。体が、心が、自分の中の何かが。
泣いて、喘いで、叫んで。自分は人間で無くなってしまったのではないかと思うくらいに加苅は荒れた。
そうしないと、自責の念に押しつぶされそうだった。
着物を作るときに余計な思いなんて込めなければ。そうすれば椿は死んでいなかかったかもしれない。
だって椿の死は、とても歪んだ形で加苅の願いを叶えてくれたのだから。
こんな悲しい叶い方などあるだろうか。こんなことなら叶わなくてよかったのに。
そう思いながらも、加苅は思わずには、呟かずにはいられないのだ。それも彼の本心だから。
「…………良かった」
二人が結ばれなくて、本当に。
作品名:散花妖想 作家名:三鳥