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カナカナリンリンリン 第一部

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前方の緑の中にちらっと岩肌が見えた。多分もうすぐ滝が見えるはずと自分に言い聞かせ歩く。相変わらずカナカナリンリンリンという鳴き声がしていて、それは歓迎にも思えるし、警告の音にも思える。どちらかというと、と私は歓迎されているのは妻だろうかと思い、また警告だったら、やはりリュックの中の妻だという結論に達した。その考えにさほど意味があるわけでもなく、ただ避暑のために滝を見にきたのであるが、果たしてこれは避暑になるのだろうかと思った。その思いの奥に避暑は言い訳ではないのかという自分の声もする。そしてまた遭難したら、それもいい、いやそれを望んでいるのではないのかという声もする。

沢の水音が聞こえてきた。山をまくように小道を曲がったとき、それは見えた。
―あああ―と私は声にならない声を出した。その絹の滝に視線をむけたままゆっくり近づいた。木綿の滝の二倍はありそうに高さがあった。しかし幅は半分ぐらいだろうか、かすかに傾斜があって、飛沫もなく滑らかな岩をすべり落ちるという感じに水が落ちてくる。水音はしてる筈なのにまるで耳に入らず、私はそのやさしく力強くすべり落ちる水を見ていた。それから少し目を左右にやると白い花が絶壁にへばりつくように咲いていた。花びらの形からそれは百合の花だった。それは単調な風景のアクセントになっていて、偶然とはいえ良くできていると思った。