カナカナリンリンリン 第一部
滝壺に近づくことができるような道があったが、私はお昼を食べてから近づいてみようと思った。時間は正午をちょっと過ぎていた。木のベンチがあったので座って、バスに乗る前に買ったサンドイッチを出そうとして箱に気づいた。箱を取り出して妻の位牌を滝に向けてベンチの上にのせた。別に深い意味も信心もない、気まぐれであるが、妻の言葉が聞こえるようだ。
「あなたは、もう気が早いんだから、女には準備ってものがあるのよ」
私は「迷惑だったかい」とつぶやいてみるが、返事はない。スポーツ飲料を飲み、空腹な筈だが食欲はあまりなく、サンドイッチを飲み物でどうにか胃に収める。先ほどから視界に入っていて、気になっているものが滝壺の手前右隅にある。私は視線をそのものに合わせた。
作品名:カナカナリンリンリン 第一部 作家名:伊達梁川