カナカナリンリンリン 第一部
滝壺の前から東屋まで戻った。真夏の今の時間は気温30度を超していると思われるが、東屋の柱に取り付けられている温度計は27度だった。私は木のベンチに座って、リュックをおろした。スポーツ飲料を飲み、持参したあんパンを食べた。新しく来たグループが感嘆の声をあげているのを聞きながら滝を眺める。依然として妻は無口で、そして水は絶え間なく飛沫をあげながら落ちてきていた。
ここじゃないと、唐突に私は思った。こういう滝がみたいと具体的なイメージを抱いてやってきたわけではないのだが、どこか不完全燃焼のような気分があった。時間も十分にあった。さて、これからどうしようかと思いながら、私は滝と岩、周りの生命力に溢れる緑の樹木を眺めた。ここに来る前に立ち読みしたガイドによると近くにいくつかの滝があるらしい。そういえばここに来る前に降りたバス停のそばで見た案内板に、この滝の他にあったようだと思いつき、私はリュックを背負い、水の流れる音を聞きながら緩やかな坂道をバス停に向かった。
作品名:カナカナリンリンリン 第一部 作家名:伊達梁川