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カナカナリンリンリン 第一部

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周りの水面を見ると、大きな沼の中にいるような気がして、ここから脱出できないまま何者かに足を引っ張られて溺れ死ぬのではないかという考えも浮かんだ。頭の中で落ち着いてという声がする。少し視線を変えて見ると砂利と岩の陸地はすぐそこに見えている。私はゆっくりと向きを変えて、滝壺からの脱出を始めた。普通の水より濃度が濃いのではと思ってしまうほど、足はすいすいとは動かない。私は泳げないし、また泳ぐには中途半端な水の深さだ。滑って転ぶとおぼれてしまうのではないかという恐怖もある。実際足にあたる小石の表面はつるつるしていて滑る。足がしっかりと固定するのを確認しながら、すり足でじりじりと進んだ。

岩と砂利の私の目指す場所はすぐそこに見えている。しかしその数メートルがずいぶん遠くに感じられた。焦るなと自分に言い聞かせるが、じれったいほど少しずつしか勧めない。どうにか水面から足があがるまでになった。ほっとしたとたん、今まで耳に入らなかった滝の音と、森の中のカナカナリンリンリンが聞こえてきた。

滝壺から出たがすぐにしゃがみ込んで呼吸を整える。なかなか動悸がおさまらない。のどが渇いて、ベンチの方を見たが、すぐには立ち上がれなかった。俺は何をやっていたのだろう、いつも昼寝をしている時間なので寝ぼけていたのだろうか。滝を見ていて催眠術にかかったようになったのだろうか。まさか霊的なものがと考えが浮かび、祠を見た。祠は私は関係ありませんよというように滝に背中を向けている。滝を見上げが最初にみたように滑らかな岩の上をさらさらと滑り落ちている。ちょっと前にはたしかに光輝いてみえたのだが、思い出してみるとあれは現実の出来事かどうか次第に自信が無くなってくる。