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カナカナリンリンリン 第一部

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私は靴を持ってのろのろと立ち上がってベンチに戻った。途中祠の前を通る時に無視できなくて、軽く頭を下げてしまった。霊的なものは信じないといいながら、たった今経験した出来事で少し変わってしまった。スポーツドリンクをごくごくごくと飲み、ふーっと息を吐いた。

思い出したように位牌を拾い上げ、ハンドタオルでぬぐいながら、妻が私の危険を察知して知らせてくれたのかも知れないと思った。私は位牌を胸に抱きしめた。治ることの無い病気でも泣き言を言わなかった妻、ときどき大きくため息をついた妻を、後ろからそっと抱きしめた感触を思い出した。

「大丈夫?」と妻の声が聞こえた気がした。それは、苦しそうな妻に尋ねる私の日常的な言葉だった。そして妻はいつも肯定の「大丈夫」と答えるのが癖のようになっていた。私は涙が出そうになった。


第一部 了 第二部に続く