カナカナリンリンリン 第一部
まさにその時どこか一部が動いたような気がした。それは祠のようで、私は一瞬身体中がさーっと冷えたような気がした。さらに気をつけて見ていたが、動く物は見あたらなかった。霊的なものは信じていなかったが、妻の位牌をもって滝巡りに来たことは、どこかで少しは信じていたのか、あるいは何かを期待していたのかも知れない。ただ、行動としては、リュックに飲み物と甘い物を入れ、雨具を入れたがまだ十分にスペースがあって、何かもってゆくものはないかと見回していて、妻の位牌が目に入った結果なのである。
私は位牌と祠との組み合わせが何かいけないことだったのかと思ってしまい位牌を見たが、急に輝いてみえるとか、水でぐっしょり濡れているということは無かった。相変わらず人の声は聞こえず、遠くであのカナカナリンリンリンという音が聞こえた。少しずつ冷静になって、サンドイッチをスポーツドリンクで流し込み、私は滝壺に向かって歩き始めた。途中祠の前を通ることになる。さらさらさらと水が滑り落ちる音の中、いくらかの畏れと好奇心をもって祠の前に立った。
石造りの仏像のようなレリーフが見える。それを覆うように木の小屋になっているのは後で作られたのだろう。細長い湯飲みのようなものに活けられてあった花がしおれている。動く可能性があったのはこのしおれた花のみということを知って、風のせいでしおれた花が動いたのだろうと、言い聞かせてみたが、そんな動きではなく、見つかりそうになった何かが慌てて隠れたように見えたのだった。それは20センチぐらいの人間のようなものではなかったかと、頭の中に妄想が浮かび、慌てて追い払った。祠の中と後ろをじっくり見てみたい好奇心もあったが、怖い気もして、何も見なかったことにして滝壺に近づいて行った。
作品名:カナカナリンリンリン 第一部 作家名:伊達梁川