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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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緑神国物語~記録者の世界~ 短編集01緑神国

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「へえ、まだ城に入れて1年と経っていないのに騎士か。若いようだし……やる気の程は?」
「必ず命令に従う、騎士の立場を理解しています」
 真摯な目が宰相の目を見つめ返し、宰相はふっと酷薄な笑みを浮かべた。皇帝が、頷く。
「確かに、いいな。ただし、こいつ一人じゃ無理だ。早く他の兵を使いものにしてくれ」
「はいはい」
 教育長は、軽く返事をすると、席に着いた。隣に座っていた国王護衛部長が、我慢しきれないというように立ち上がった。座椅子が、大きな音をたてて倒れる。
「陛下!それでは、私たちは何をしろと・・・!?」
 戦闘部隊というものを作ることについては、護衛部には完全極秘となっていたため、ようやく気づいた護衛部は憤慨したように肩を震わせていた。護衛部の最大にして唯一の仕事、皇帝と宰相を守るという仕事は、騎士達に全て持っていかれてしまっている。
 そんな護衛部長を冷たく一瞥し、面倒そうに口を閉ざす皇帝の代わりに、宰相は言った。
「外交部長、護衛部には見合った仕事を与えてくれ。うわさによれば、一部の地域で権力を振りかざしたとか。そんなやつを城にいれておけるほど、心の余裕が無いからね」
 びくり、と反応した護衛部長を尻目に、呼ばれた外交部長は、立ち上がって深く頭を下げた。
「はい。それでは、保安部に入れましょう」
 保安部は街の平和を守る警察のような役職だが、実際事件などが起こらないので、閑職といってもよかった。皇帝の、戦闘訓練を受けた経験のある者はそう簡単に殺すのも勿体無いという考えからの結論だった。
 悔しそうに、護衛部長は席に戻る。
「……ところで、避難民の対策になにか提案のあるやつはいないか?」
 もう護衛部のことなど忘れたようで、ふと思い出したように皇帝は言った。
 ホール中の真っ黒い集団は、ぼそぼそとざわめいた。もちろんお互いの保身など考えていない、この城の教育部による徹底的な道徳指導により、そんなものは頭に無い。あったとすれば、それはその人の意思が弱いだけだと皇帝は思っている。
 難しい質問にみなが苦悩していると、そのなかで手が挙がった。さっとホールが静まり返る。
「私は、諜報部による偽の情報を、女帝国に広めたらどうかと思います」
「偽の情報?」
 興味深そうに宰相が聞き返し、そして皇帝を振り返った。
「どうだろう、諜報部を使うようですよ」
 その言葉に、皇帝は渋い顔をした。おもに聞き込みや情報収集を得意とする諜報部は、ただいま外出中だ。3月は緑神国の国民たちに国政の評価を受ける月であり、その仕事をやめさせるのは気が引けていた。
 皇帝は、諜報部としてただひとりこの会議に参加する、国務臣の諜報部長に問う。
「もしもさきほどの提案を実行するならば、どれくらいの諜報員がいたらいいんだ?」
「私ともう一人いれば、充分です」
「本当か!それなら、実行可能だな」
 皇帝は薄く微笑むと、宰相に言った。
「とりあえず、その偽情報とやらをお前と諜報部長、さっきの提案者とで考えろ」
 宰相は、やれやれと肩をすくめた。皇帝の面倒ごと放り投げ、はいつものことである。しかし皇帝の性格を知っている宰相と同様、皇帝も宰相の性格を熟知している。
 いつもながらに、宰相は言った。
「そのかわり、きっちりこの会議の解散は行ってください」
「当然だ」
 皇帝はホール中を改めて見回した。皆がしっかりと背筋を伸ばしていることを確認する。数名は椅子に寄りかかっているが、いつもの奴なのでほおっておいた。
 全員の黒マントが、ぴたっと静止する。
「それでは、今日の極秘会議を終了とする!全員仕事に戻れ!」
「お疲れ様でしたッ」
 どこか運動部よりの解散方法は、緑神国では日常だ。

「それでは私も部屋に戻ります」
 騎士が遠慮がちに口を開いた。教育長と外交部長、皇帝だけしかいないホールは、静けさで満ちている。
「ん、さようなら」
 教育長はそう言った。皇帝も、欠伸をしながら指でオッケーサインを出す。
「それでは、失礼いたします」
 騎士はドアに向かうと、そっと戸を閉めた――…。

 そしてしばらくして、残った3人も解散した。



「疲れたあ――!!」
 日ごろは冷静沈着で厳しいといわれる皇帝だが、本当の姿はただのサボり魔である。彼専用の第一執務室で一緒にいる教育長は、深くため息をついた。叫びながら文句を言う皇帝の頭に、スコーンッと分厚い参考書を叩きつける。タイトルは『諸外国との貿易~食物輸出の現状~』だ。
 教育長は国政よりも皇帝ら城の住民の教育に力を入れている。というか、他に手をだせるほどの暇がない。
「痛ッ!」
「まったく、誰かに聞こえてたいらどうすんですか!」
 腕を組み、説教の姿勢になった教育長に、皇帝は不満げな声をあげる。
「いいでしょ別に。メイド長とも昨日!」
 そうですね、よりにもよってメイド長。教育長は二人の悪友としか思えない仲に、ため息をつく。
 何代にもわたってメイドをしている家の娘のため、皇帝とは幼馴染のようなものだ。仲がいいのは構わないのだが、どちらも直ぐにどこかへ消えてしまうので、良いペアではない。
 教育長が音をたてて机を叩いた。皇帝に対してだろうと、このときばかりは容赦が無い。
「彼女は関係ないんですよ!だいたい――」
 コンコン
 突然ノックの音が聞こえ、教育長が驚いたように話すのをやめた。そして皇帝に背を向け扉に近づいた途端、嫌な気配に再び皇帝を振り返る。先ほどから彼がふんぞり返っていた赤い椅子は…
「へ、陛下ッ」
「どうかなされましたか?」
 忽然と消えた皇帝にむかって大声をだす教育長に、部屋に入った保安部長が不審げに尋ねる。彼女は視線を彼に向け、苦笑いで言葉を返した。
「いつもの城脱走だ、全く困ったもんだ。大丈夫、今すぐ連行してきますから」
「そうですか。それよりこの資料を渡すよう、騎士という者から頼まれまして……」
 立場は同じだが、教育長とは権力差のある保安部長は、丁寧に言葉をつむぐ。しかし渡された書類は、これから先一生使わないであろう皇帝の観察記録(著・城の倉庫番)だ。城の倉庫番は暇なんだなぁ……とか思うか!
 教育長のオーラが一変したことに気付いたのか、ビクッと保安部長が肩を震わせる。城の中の者は皆が教育長の指導を受けた経験があるため、彼女の怒りには敏感だ。
 彼女は彼に向かって、にっこりと微笑んだ。
「分かりました。受け取ったことについてはこちらから言っておきます、もう下がってどうぞ」
「は、はい」
 保安部長はこくこくと頷いて、部屋から出て行った。それを確認し、教育長は手に持った書類の束を床に叩きつけた。
 バサッ
「騎士まで使ってんじゃねえよ、あの野郎……!」


 コツコツコツッ 
 足早に石階段を下りる音が、城の一番端にある塔に響き渡る。螺旋階段は塔の内側の壁に取り付けられており、よく壊れるので修理が追いついていない。ところどころ欠けた階段を軽快に飛び越えながら、皇帝と新任騎士は外へと向かっていた。
「まったく、今日に限って大広間にいるしねぇ」
「宰相閣下のことですか?」
 不満そうに口を開く皇帝に、騎士が尋ねる。
「ああ。大広間なら、すぐに外へ出られるんだ」