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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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緑神国物語~記録者の世界~ 短編集01緑神国

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「教育長、怒っていると思いますよ?いつもは温厚な方なんですがね」
 む。と皇帝は唇を尖らす。
「……いつものことだ、自由にさせてくれないのが悪い」
「いや、そうなんですけどね。宰相閣下に言いつけられて……あ、陛下止まって!」
 ぐい、と皇帝を後ろに引っ張った。声を掛けたおかげで、皇帝もバランスを崩すことなくしゃがみこむ。
「なんだ?」
 光の差し込む一階の出口まで、あと少しである。しかし彼女は、首を振った。
「待ち伏せされています。ここからは見えませんが、普段は開けていないドアが開いていることがおかしいです」
「確かにそうだが……」
 悩んだ表情をする皇帝を見て、騎士は少し意外に思っていた。
 城で残虐な仕事をしている皇帝を、騎士はたった一度だけ見たことがある。緑神国の国民であるにもかかわらず、なぜかこの国が軍国主義であることを教えてくれない教育長。彼女が外出をしていたある日、宰相が代わりにと言って城を案内してくれたのだ。
――あの時は、楽しかったな。
 普段教育長が関わらせようとしなかった様々な部屋を見せてもらった。拷問室という部屋に行ったときは、流石に驚いたが。でも皇帝陛下は、そこの椅子に座っていたのだ。彼の冷たい眼差しを、騎士は今でも覚えている。まるで、視線だけで人を射抜くような鋭さがあった。
 この城には、嘘や隠し事がいっぱいだ。皇帝の子供のような一面を見つけた騎士は、複雑な気持ちで主を見つめている。
「陛下、どうしますか」
 しばらく迷っていたようだが、皇帝はやがて頷いた。実際は騎士の言うとおり、過去に何度か待ち伏せをくったことがある。
「よし、お前の言葉を信用しよう。それなら、この階の窓を降りれば――」
 ガタンッ
 皇帝の言いかけていた窓が、音をたてて開いた。
「……!!」
 2人は驚いて、その場に凍りつく。開いた窓から、ひらりと人影が飛び込んだ。2階の連絡通路と繋がるこの窓。その時、ふと騎士は思った。
――もしかして、他の窓からも俺らが見えたのでは?
 他の窓も、一部は連絡通路や特別室の窓と接していたはずだ。
 だが、今更気付いたところでもう遅い。
「陛下?鬼ごっこは終わりですよ?」
 教育長が。
 教育長が。
 ぼそぼそと蒼白になった顔で皇帝が呟く。視線の先には、満面の笑みを湛えた教育長が立っていた。とはいっても笑ってはいない鋭い瞳が、騎士に向けられる。
「陛下……?よくも彼女を使いましたね?」
 そんな事を言う割には、「何でお前は皇帝を止めなかった」という表情で騎士を見ている。
 日常茶飯事の怒りだろうに、何故こんなに陛下は怖がっているのだろう?そんな騎士の疑問は、すぐに掻き消えた。
「ああ、陛下。貴方は何をなさっていたのですか?」
 教育長の後ろから、低い声が聞こえた。顔をみなくても分かる。
「宰相閣下……」
 怒りというよりもその顔は楽しそうだが、問題は教育長なのだろう。彼女は宰相閣下に言いつけると、皇帝と騎士の牽制を出来る代わりに自分も叱られるのだ。怒り度数からして、今回は偶然皇帝が逃げているのを宰相閣下に見つかったんだな。
「まあ、私は行政のみの補佐ですが……やっぱり、陛下には仕事をしてほしいですね」
 皮肉なのか冗談なのか分からない言葉が、閣下から言いつけられる。皇帝はおとなしく下を向いているが……本当に聞いているのだろうか?騎士と同じ疑問を持っているらしく、教育長も訝しげに皇帝を見つめている。
「教育長、しっかりしてくださいよ?」
 うわあダメ押しだ。
 恭しく頭を下げる教育長を見ながら、騎士は思った。
 宰相が去り、3人が階段の上で座って……いや、1人以外は土下座である。皇帝はふて腐れた様に俯いている。日ごろの威圧感は感じられない。
「騎士……?重要な書類は、しかと受け取りましたよ?」
「あ、アレは私が……」
 庇おうとしてくれる皇帝だが、教育長のいつもより増した睨みに押し黙る。確かにあの方法で第一執務室から出るのは皇帝の考えだが、実行を決意したのは騎士のほうだ。
「陛下、今日はしなくてはならないことは山積みなんですよ?」
 極秘会議はともかく、政治講師さんからの宿題や旅行許可証の許可も……5本指では数え切れないのか、教育長の指が何度も曲げてはのびてを繰り返していた。
「……水道など、流水管理のやつらに任せればいいんだ」
 ぼそりと皇帝が反論し、再度教育長に睨まれた。一切の反論をも受け入れない彼女なら、立派な独裁者になれるかもな……と考えていた騎士は、彼女の持つ書類で頭をはたかれた。
「数年教育していれば考えることなんて丸分かりなんだよ!」 
 ドアの見解についてだとすぐに分かった。教育長は騎士の裏も読み、行動していたのだろう。さすが、皇帝を教育担当として追いかけっこをするだけはあるが、なんだか哀れだ。
「なんだ?その目は……?」
 結局、彼女の説教を1時間受ける羽目となった。