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ライフジャケット

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『そうだな。命があればな』
「お前のお陰で助かったよ」
 宮本は死して尚、こうして友を助けてくれているのだ。何とも劇的な再会ではないか。高杉は良い友を持ったことを誇りに思うと同時に、このライフジャケットが自分の手に渡ったことも運命であったような気がしてならなかった。
『俺にはわかる。もう少しすれば遭難信号を聞きつけた救助のヘリが来る』
「そうか……」
 高杉は愛しそうにライフジャケットを摩った。
『こんな目に遭って、まだ釣りをしたいか?』
「そうだな……、釣りはやめられん。次はアジかイシモチにでもしておくか」
『当分、遠征はやめておくんだな』
「そうするよ。近場で手軽に釣れる魚にする」
『どうでもいいけど、ライフジャケットを過信するなよ』
「どういう意味だ?」
『じきに助けが来るが、最後まで気を抜くなということさ』
「ああ、わかったよ。でも、お前がいるから心強いぜ」
『そうか……』
「そういえば、いつかお前と行った伊豆のイサキも時化ていたっけなぁ」
『そうだったな』
「釣れることは釣れるが、みんな船べりでバレちゃってさ」
『そんなこともあったな。懐かしいな』
 遭難した時に他愛のない話でもして、励ましてくれる話し相手いるだけでも助かるものである。高杉は宮本との会話に救われた気がした。

 どのくらいの時間が経っただろうか。高杉はくじけそうになっても、宮本に励まされながら、波間を漂い続けた。
『ヘリが来たぞ』 
耳を澄ますと、バラバラとヘリコプターのエンジン音がする。
「助かった!」
 ヘリコプターは高杉の上を大きく旋回した。ライフジャケットには反射板が供えられている。上空から救助する際には、とても目立つように出来ているのだ。
 ヘリコプターは数百メートル先の釣り人を救助した。風が強く、定位するのが難しいのだろうか、救助作業は難航しているようだ。高杉はそんな様を見て苛立ちを隠せなかった。
『慌てるな。必ずここにも来る』
 宮本が諭すように言った。その通りだった。一人の釣り人を回収して、ヘリコプターは高杉の上空へと定位した。凄まじい風だった。
 ヘリコプターから縄梯子が下ろされる。
「おーい、大丈夫かー!」
「はーい!」
「よーし、捕まれー!」
 高杉が縄梯子に向かって泳ぐ。あと一息で縄に届くという時だった。
『俺もあと一息というところだったんだよ』
作品名:ライフジャケット 作家名:栗原 峰幸