「新シルバーからの恋」 第八章 ハワイ
「ほう、そりゃ面白いな。酒井さんが考えたのか?」
「そうみたい。美雪たちの挙式はちゃんと決めてあるんだって。何処になるのでしょうね。あなたハワイへは行った事があったわよね?確か・・・」
「ああ、でも20年ほど前になるよ。何処に泊まったのか忘れてしまったよ」
「今は変わっているでしょうから、楽しみね。きっと恵子のことだから立派なホテルよ」
「だと嬉しいね」
何を持ってゆこうか、どんな服装で行こうか、そんな話をずっと二人はしていた。初めての海外に悦子は言葉の心配をした。
「私英語が話せないけど、大丈夫かしら・・・」
「ハワイは日本語通じるよ、たいていの観光地とかレストランは。土産物屋なんて向こうから日本語で話しかけてくるよ。日本語大丈夫ですよ!ってね」
「そうなの!日本人って本当に良く出かけるのね」
「二世も住んでいるし、ホノルルは特別だよ」
確かに順次が言っていることは事実だ。下手をすると日本人スタッフしか居ないっていう店もあったりする。ビンテージジーンズや、古着の店なんかそうである。「これ日本で売っていたやつじゃないの?」なんて商品がバカ高い値段で売られている。浮世絵のように多くが海外に流失してそれを法外な値段で日本人が買い戻しているのである。
いよいよハワイへの出発の日がやってきた。集合時間に8人は関空国際線出発フロアーで旅行社の係員とこれからの手順を聞いていた。恵子が手渡された日程表と分厚いパンフレットの中にはすでに宿泊先の資料が入っていた。もちろん今は見せない。必要な手続きを済ませて、税関を通り搭乗口の待合で軽くコーヒーなどを飲みながら案内を待っていた。
曇り空の中みんなを乗せたジャンボ機はホノルル空港目指して離陸した。
うって変わった青空の中で無事到着して、税関を抜けそれぞれの思いでハワイの地を踏んだ。予定通りに8人を乗せるワゴンタクシーが目に入った。恵子は現地の案内人と打ち合わせをして、タクシーでホテルに向かった。ヒルトンハワイアンビレッジに着いて荷物をいったん預けてチェックインの時間まで買い物にでも出かけようと、歩いてカラカウア大通りまで行った。
「凄い人ねえ、さすがハワイね。日本人が多いし」悦子は感心した。こんなにたくさんの人が観光していることで、改めて日本の豊かさを知らさせた。
「ねえ、お姉さん。水着買いに行きましょうよ」美雪はそう誘った。
「そうね、あなたはビキニでも似合うけど、私たちは・・・普通のにするわ、ねえ恵子、伸子?」
「悦子は美雪さんに合わせてビキニにしなさいよ。大丈夫だから・・・知っている人いないし」
「ダメよ、主人に怒られちゃうから」
「何で?他の男性に肌見せるなって、嫉妬なの?」
「違うわよ、恵子。何言ってるの・・・みっともないからよ」
「ねえ?美雪さん、そんなことないですよね?」
「お姉さん、恵子さんの仰るとおりです。私と一緒に買いましょうよ?」
「ダメだって・・・自信ないし・・・無理」
夫の順次がニコニコしながら聞いていた。
「構わないぞ、俺は。今回ぐらいはいいんじゃないのか?ハワイだし」
「あなた・・・知りませんわよ、がっかりなされても」
「おいおい、そんなことないから・・・美雪さん、良いの選んでやってよ」
「はい、任せてください」
二人はいくつかの店に入り物色した。ちょっと派手に感じたがこの天気とハワイのムードで思い切って購入した。
悦子はこの年になってビキニを着ることになるなどとは思いもよらなかった。買ってからまだ着ることに抵抗を感じていた。ここに来るまでにビーチを覗いたが、確かに多くの女性がビキニ姿ではあった。ただし高齢の女性は見つける事が出来なかったから、やはり泳いでないのか、服を着て砂浜にいるのだろうと思えていた。
「美雪・・・私やっぱり着れないわ。誰もこんな年で着ていないと思えてきた」
「お姉さん、私だって二つしか違わないんですよ。大丈夫ですって、着ちゃえば馴染みますよ。こんなに青空なんですもの」
確かに抜けるような青空であった。エメラルドグリーンのダイヤモンドヘッドビーチはきっと先程買った鮮やかな水着が映えるだろうと美雪は思っていた。
「悦子、買ったのね。楽しみだわ・・・どんな水着なのか」
伸子はくすっと笑いながらそう言った。
「伸子も買ったのでしょ?恵子も?」
「うん、買ったよ。ワンピーだけどスカートが付いているから安心なの」
「可愛いじゃない、そう。恵子は?」
「私は・・・ごく普通のやつ買った。誠二がハイレグにしろって言ったけど、無理よね?身がはみ出ちゃう」
「みんなどんな姿なのか楽しみよね・・・美雪さん以外はきっと・・・」
恵子がそう言うと、剛司が
「きっと・・・何?」笑いながら聞いてきた。
「いじわるね、中山くんは・・・あなただって醜いお腹を晒すのよ!解っているの?」
「おいおい、言うね・・・確かにそうだ。誠二くん以外はやばいなあ・・・」
大きな声でみんなは笑った。こんな会話が出来る今がとっても幸せに感じられる。悦子はもう迷わずにビキニを着ようと決めた。
軽くランチを済ませてチェックインの時間になった。8人はホテルに戻ってロビーで恵子が出したパンフを貰った。
「お待たせしました。ここのホテルのパンフです。とても大きな施設なので迷わないで下さいね。有名な紅花レストランもありますし、コンビニもあるの。じゃあ、発表します!」
「何を発表するの?」伸子は聞いた。
「部屋の案内よ。お部屋は二部屋しか予約していません」
えっ〜という声が洩れる。
「どう言う事?恵子さん」順次は怪訝な表情で尋ねた。
「平川さん、そして皆さん、このホテルにはコンドミニアムがあってそこを予約しました。一般には利用出来ないのですが、特別に計らって頂いたのよ。キッチンとダイニングが付いている大きなお部屋なの。トイレとバスルームは一つずつだけど、ベッドルームは二つあります。十分な広さなので4人が入っても狭く感じる事はないのよ」
「って言う事は、二組で泊まるって言う事なのか?」剛司は質問した。
「そう、抽選でもいいけど、一応ね私たちと中山くんたち、平川さんと副島さんたちに分けようと思うの。どうかしら?」
「それでいいよ」みんながそう言った。
それぞれに荷物と渡されたキーを持って部屋に向かった。エレベーターで最上階に近いその部屋からは、せり出した小さなベランダで海が一望出来た。眼下の小さな浜辺はプライベートビーチになっていて静かな時間を過ごせる。
「あなた、とってもいいところね。さすが恵子だわ」
「悦子、そうだな・・・お前も美雪さんと同じだし、俺も副島と一緒だからいろんな事話せるしな。ここは最高の部屋だよ」
後ろから美雪の声がした。
「ねえ、何話してらっしゃるの?」
「美雪、とってもいいところだって話していたのよ。あなたもそう思うでしょ?」
「うん、最初に聞いたときは副島さんがどう思うか気になったので黙っていたけど、お姉さん達とこうして一緒に泊まれるからすごく嬉しいの」
「え?知っていたの」
「ゴメンなさいね・・・言わないでって言われたから」
「もう・・・恵子ったら」
「まあ、怒るな悦子。楽しい企画じゃないか、なあ副島」
作品名:「新シルバーからの恋」 第八章 ハワイ 作家名:てっしゅう