かわいそうなお姫様
まるでそこは悲しみの海と同じ。
いつか幽閉された難破船のように、暗くて冷たい床の上に身を投げ出した娘は
自分がなぜここに居るのかも忘れてしまうほど疲れきって、美しい海のお城を
夢に見ながら眠りました。
もう、わたしはお姉さんたちと同じように美しくなることは叶わない。
涙ながらに真珠のような白い足が痛まないように撫でる、人間の娘に生まれ
変わった人魚のもとへ現れた、女房はこう言いました。
「お前、海で倒れていたんだって?まさか人魚じゃないだろうね」
人魚のように飛び跳ねて驚く娘を見て、すぐにわかった女房も昔は人魚で
魔女の呪い受けて人間になったことを教えてくれました。
「かわいそうに。声まで奪われて、お前は愚かな人魚だよ。
一度でも人間になれば、もう海には帰れないのに…」
しかし夜毎、人間の男たちに愛されて肉を貪れば小さくて醜い人魚だった頃と
比べものにならないほど娘は美しく変わりました。姉たちよりずっと美しい亜麻
色の髪を夜風になびかせて、バラ色の指先でなぞる豊かな胸はコルセットから
こぼれ落ちそうだと男たちを悦ばせる娘は、今や宿一番の稼ぎ頭。誰かに恋を
覚えることも魔女との約束も忘れて、自由を愛する蝶のように暮らしました。