かわいそうなお姫様
「その足のままでは、人間と愛し合うことはできない。この薬を飲めばお前の
尻尾は無くなり地上を歩けるようになる。ただし一度歩けばナイフを踏むような
痛みに襲われ、お前の身は引き裂かれるだろう。呪いを受ける覚悟があるなら
その声を寄こすんだね。さぁ早く」
妹の口に黒くて汚い爪を突き立てると、声を奪われる代わりに魔法の薬を手に
入れました。そして恐ろしい魔女は最後に、こう告げました。
「もし、人間が愛することをやめてしまったら
お前は海の泡になって消えてしまうからね。忘れるんじゃないよ」
魔女は愛らしかった妹の声で高らかに笑いながらあぶくをまき散らし、妹を
追い払いました。苦しみに耐えながら海の上に昇る妹は人間と恋をして美しく
なり再び、海の世界に戻ってくることだけを望み、砂浜で薬を飲みました。
すると今まで味わったことのない激しい苦痛に襲われ、すべてが奪われ奈落
の底へ墜ちる恐怖に戦きながら砂を噛みしめ、意識を失ってしまいました。
目が覚めた人魚だった娘は、尻尾がふたつの足に分かれているのを知るよりも
はやく目の前に現れた漁師の男たちに襲われました。悲鳴をあげられないばかり
か足が痛くて逃げることも適わない娘は、あらゆる痛みに心を引き裂かれながら
男たちが順に終わるまで、初めてのつらい時を過ごしました。
それから港町にある宿場へ連れて行かれ、ほんのわずかな酒代と引き替えに
売り飛ばされた娘は、草で編んだ敷物を朱に染めながら帰ることのない男たちの
慰み者として朝になるまで働かされました。